劇場公開日 2019年10月11日

アップグレード : 映画評論・批評

2019年10月8日更新

2019年10月11日よりシネクイント、新宿シネマカリテほかにてロードショー

AIが繰り出す驚異のアクション、その果てに浮かび上がる人間という物哀しき存在

ある日突然、謎の一味に襲撃され、愛妻を殺された揚げ句、全身麻痺となった自動車修理工の男が、STEMという革新的なAIチップの被験者になったことで復活を遂げる。ジェームズ・ワンとのコンビで「ソウ」シリーズを世に送り出したリー・ワネルが「インシディアス 序章」に続いて放つ監督第2作は、人工知能を題材にした近未来SFだ。しかも体内に埋め込まれたAIチップによって超人的な運動能力を獲得した主人公グレイが、妻殺しの犯人を突き止めていくというキャッチーな設定のリベンジ・アクションである。

小さな虫のようなサイズのAIチップの驚異を、いかにビジュアルで具現化するか。この命題に取り組んだワネル監督は、まずアクション描写に工夫を凝らした。普段は車椅子生活を送っているグレイから彼の身体を動かす“主導権”を委ねられたAIは、瞬時に最適な判断を下して手足に信号を送り、目の前の敵を排除する行動を起こす。AIに操られた人間が目にも留まらぬ速さで正確かつ効率的なアクションを繰り出し、なおかつ無慈悲なまでの残酷さで目的を遂行していく様を視覚化。主演俳優ローガン・マーシャル=グリーンのロボットのような振付と、トリッキーなカメラワークを連動させた演出に目を見張らずにいられない。

オリジナル脚本も手がけたワネルは、「2001年宇宙の旅」のHAL-9000以来、このジャンルの王道テーマである“テクノロジーの反逆”も追求した。巨大IT企業の若き経営者が創造したAIであるSTEMはグレイの耳に音波を送り、宿主である彼に助言を与えていく。ところが恐るべき学習能力と野心を秘めたこの自律型AIは、観る者の予想を超えたしたたかさでとっくに反乱を起こしているのだ。幾多のホラーやスリラーでプロットのひねりを重んじてきたワネルの得意技が、ここでも鮮やかに炸裂する。

そして、このスタイリッシュな近未来SFが思いのほかエモーショナルに仕上がっているのは、体の一部が兵器化した犯罪者らを登場させ、おのれの限界を超えようともがく人間たちの行く末を描いているからだ。病気や事故などでしょっちゅう“不具合”を起こし、感情にも左右されやすい人間は、STEMから見ればどうしようもなく不完全で不合理な存在だ。テクノロジーの力を借りて涙ぐましく改良(アップグレード)を図る人間たちは、その果てにいかなる心のよりどころを見出すことができるのか。そんな深遠なテーマにも触れようと試みた本作は、現代SFジャンルのもうひとつの人気モチーフであるVR(ヴァーチャル・リアリティ)に言及し、このうえなく物哀しい答えを提示している。

高橋諭治

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