ヴァンサンへの手紙

劇場公開日:

ヴァンサンへの手紙

解説

ろう者の存在にスポットを当て、彼らが抱える心の声を描いたドキュメンタリー。ろう者の友人バンサンが突然命を絶ってから10年、レティシア・カートン監督は「ろう者の存在を知らせたい」というバンサンの遺志を継ぎ、ろうコミュニティでカメラを回し始める。美しく豊かな手話や優しくも力強いろう文化など、バンサンが教えてくれた、知られざるろう者たちの世界に触れるうち、カートン監督はろう者たちの内面に複雑な感情が閉じ込められていることに気付く。社会から抑圧されてきた怒り、ろう教育のあり方、家族への愛と葛藤。現代に生きるろう者の立場に徹底して寄り添いながら、言葉にならない心の声を丁寧にすくい取っていく。

2015年製作/112分/フランス
原題または英題:J'avancerai vers toi avec les yeux d'un sourd
配給:アップリンク、聾の鳥プロダクション
劇場公開日:2018年10月13日

スタッフ・キャスト

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(C)2015 Kaleo Films, Le Miroir

映画レビュー

4.0ろう者の文化へのリスペクト

2018年12月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

ろう者の俳優、レベント・べシュカルデシュによるパフォーマンスが象徴的だが、手話という言語の肉体の饒舌さに驚かされる。音のない世界は実はこんなにも豊かなのだと感じさせる貴重な映画だ。ろう者への差別の実態も描かれるが、それ以上にろう文化の豊かさに焦点を当てているのが素晴らしい。

親友のヴァンサンが自殺したことにこの映画の制作は端を発するが、その謎や自殺の責任を誰かに問う作品ではない。健聴者がろうの人間に対してどんな誤解をしているかを丁寧に解説し、ろうのは健聴者にはない独自のカルチャーがあることを教えてくれる。

人工内耳手術という選択にも一石を投じている。ろうは一つの個性であり、独自の文化さえあるのなら、手術がいつも正しい選択とは限らないと映画は主張している。耳が聞こえないのは治療すべき障害か、それとも一つの文化への入り口か。健聴者が知らない豊かな文化への扉を開けてくれる映画だ。

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杉本穂高