マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ! : 映画評論・批評
2018年12月25日更新
2019年1月5日よりBunkamuraル・シネマほかにてロードショー
名優マイケル・ケインと贅沢すぎるコメンテーター陣がリヴィジットする60’s万華鏡
ビートルズやローリング・ストーンズによる反抗的なロック・ミュージック、ツイッギーに代表されるミニスカート・ファッションとスウィンギング・カルチャー。現在我々が、当たり前のように享受しているこうしたユース・カルチャーがすべて、60年代のロンドンから湧き起こったのを覚えているだろうか。否、湧き起こったと書くとあまりに奇跡的な印象を与えるが、それは降って湧いた奇跡ではない。むしろそれまで理不尽な階級社会に押さえつけられていた若者がついに自分たちの主張を露にし、やりたいことをやり始めた、それが大きなムーブメントとなって社会の認識を変えた、彼らが自ら勝ち取った成果なのである。
本作は、そんな類い稀なムーブメントのまっただ中に生き、「反骨の象徴」「労働者階級のヒーロー」と言われた名優マイケル・ケインの案内によって当時を振り返る、贅沢なドキュメンタリーだ。いまでこそSir(サー)の称号を送られ、名優と讃えられるケインだが、彼自身もワーキング・クラスの出身で、デビュー当時は上流階級の役を得られず苦労を重ねた。だが「アルフィー」のコックニー訛のプレイボーイ役でセンセーションを巻き起こし、アカデミー賞にもノミネートされる。実際に「映画界をぶっとばしてきた」存在だからこそ、その言葉は重みを持つのだ。
そんなケインがインタビューをする面子がまた豪華だ。ポール・マッカートニー、マリアンヌ・フェイスフル、ザ・フーのロジャー・ダルトリー、ツイッギー、マリー・クヮント、写真家デイヴィッド・ベイリーなど。現在の彼らは声だけの出演だが、スピーディーな編集によって、彼らの貴重なエピソードを当時のアーカイブ映像を観ながら聞くことができるのは、なんともエキサイティング。そこに被る音楽のチョイスもまた絶妙で、ムードだけではなく、それぞれの歌詞が彼らの思いを表現していることは聞き逃せない。
ここまで読んで、もしかしたら「あの頃は良かった」的、ノスタルジックなドキュメンタリーではないかと思った方もいるだろうか。否、断じてそうではない。それは彼らの熱狂の元にあるのが、いつの時代も、誰にとっても普遍的な、押し付けられた足枷から逃れ自由を求める思いだからだ。ブームは去り、流行は変わっても、我々のその思いは変わらないということも、本作は物語っている。そしてケインはこう告げる。「若さとは年齢じゃない、心のあり方だ」「夢は小さくまとめるな」。
思わず背筋がピンと伸びるほど、クールな言葉である。
(佐藤久理子)