「これは「過去のこと」ではない」ブラック・クランズマン とえさんの映画レビュー(感想・評価)
これは「過去のこと」ではない
今年のアカデミー賞で監督と脚色を担当したスパイク・リーが脚色賞を受賞した作品
社会派の作品だけれど、笑って楽しめるエンターテイメント作品だった
コロラドスプリングスの警察に勤務するロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)は、1979年当時、勢力を拡大させていたKKKに潜入捜査することを思いつく
しかし、黒人のロンが潜入できるはずもなく
白人の同僚フリップ(アダム・ドライバー)と組んで、電話はロン、実際に会うのはフリップという具合に、二人一組で潜入することに
彼らの潜入はうまくいき、KKKの実態に迫るのだが…
これは、アカデミー賞で作品賞を受賞した「グリーンブック」と対になっている作品
「グリーンブック」は白人側の視点で描かれているのに対して、こちらは黒人の視点で描かれている
この映画では、1970年代、南部のアメリカで、黒人たちがどんなに酷い目に遭っていたのかがとてもわかりやすく描かれている
正直、KKKの人たちのあまりの口の悪さに、聞いてて気分が悪くなるシーンがたくさんあった
しかし、それこそが真実なのだろうと思う
なぜなら、この映画を製作している彼らが、日頃から浴びているであろう言葉の数々だからだ
酷い言葉を吐いた人間は、時間が経てばその言葉を忘れてしまうけど
言われた方は、決して忘れないのだ
だから、もしも「グリーンブック」を観て、彼らの受けていた差別について、あまりピンと来なかった人は、この映画をセットにして観れば、腑に落ちることもいろいろあるだろうと思う
そして、この映画が素晴らしいと思ったのは、KKKがその当時行なっていたことを「過去のこと」として終わらせずに、現代にどうつながっているかを示しているところだ
KKKが合言葉に使っている「America is first 」はトランプ政権が掲げるスローガンだし
KKK幹部を護衛するハーレイ集団は、トランプ支持層の代表格なのだ
つまり、KKK は過去の出来事ではなく、現在も脈々と受け継がれていて、それが現在、トランプ政権を支えているのだ
スパイク・リーは、世の中が何も変わっていないどころか、彼らが再び勢力を拡大させようとしていることを危惧しているのだ
「グリーンブック」が作品賞を受賞したことにアメリカでは批判が噴出しているらしいが、その理由の一つが「アメリカの今を描けていない」ところにあるという
この「ブラック・クランズマン」はその批判に対する模範解答のような作品になっている
「グリーンブック」が作品賞を受賞したと聞いて、スパイク・リーは、会場から立ち去ろうとしたらしいが、今日、この映画を観て、その気持ちが分かった気がする
「グリーンブック」は、スパイク・リーからしたら、おとぎ話のような話なんだろう
その白人視点と、黒人視点の違いに、今のアメリカが見えるような気がする
有色人種とユダヤ人のことを人と思わないKKKのメンバーには、本当に辟易してしまうけれど
大事なことは、彼らのような人が本当に実在しているということ
そういう人たちをどうしたら減らすことができるのかを、私たちは本気で考えるべきだということだと思う