存在のない子供たちのレビュー・感想・評価
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映画を観る→現実逃避だったけれど、これは現実の方がマシと思ってしまう映画でした。
毎日仕事で忙しくて、何のために生きているんだろうと激務の時に思っていた。いっそ全部投げ出してどこか行きたいなんてことも。そんな時、この作品に出合いました。
つらさは人それぞれで、比べる物ではないのですが、この作品を観て、いかに自分が恵まれているのかを実感しました。いつもは現実逃避で映画を観ていますが、これにいたっては、この現実に生きていて良かったと思う程。
身分証。誰もが一つはもっているはず。保険証、免許証、パスポートなど。持ち歩くの面倒だなあなんて思っていたけれど、この作品の主人公ゼインは、それすらできない。貧困を理由に両親から出生届が出されていないため、社会的には存在していないのだ。存在していないので、学校にも病院にもいけない。働くしかないゼインと兄弟たち。
どん底かと思ったらまだ底があるような次々に辛いことが襲い掛かる。
育てられないなら産むなという言葉が胸につきささります。
と、ここまで書くと重い映画かと思われますが、主人公をはじめ登場人物のどのような環境であっても生きようとする強さや、ユーモアあふれる描写、そしてラストの展開など決して重いだけの作品ではありません。
観て本当に良かったと思っています。
タイトルなし
『大人たちに聞いてほしい。
世話できないなら産むな』
これはゼインの心からの訴えです
.
俳優ではない出演者たち
ストリートキャスティング
中東の貧困・移民問題で
映画と同じような境遇におかれた人達
その表情や言葉はリアル
現実に起きていることだということを
知らなくてはいけない
.
ゼインは怒っていた
でも必死に生きていた
生きるために
親と同じことをしてしまっている姿は辛い
でも彼はその術しか知らない…
負の連鎖は断ち切らなければいけない
簡単なことではないが
差しのべる手
救いが必要だということを
考えなくてはいけない
.
.
ゼインの吐き捨てるような言葉が
忘れられません
心が痛い
子供を悲しまる親なんて糞食らえだ!
こんなにも食い入るように映画を観ることになるとは…。
本当にあっという間の125分でした。
カンヌ映画祭で、『万引き家族』と一緒に話題になった作品だからこそ、すごく興味深い作品の一つでした。
家族の問題を取り上げていて、同じようなテーマだと思っていましたが、こちらの方がいろんな意味で深くて重い…。
貧困問題だけでなく、宗教問題、男女差別、環境汚染など、少年を取り巻く生活は、過酷すぎて言葉にならない…。
朝起きてまず思うとこは、今日生きるための食事を確保しなくてはと考えること。
生きる=食べる、という悲惨な現実に打ちのめされました。
学校に行くこともままならず、親は仕事をすることを強制的に進めてくる…。
例え、行かせてくれたとしても、学校で物をもらえるかもしれないという、希望的観測の進めだけ。
子供達の将来のことなど考えもせず、親は次々に子供を産み、ますます生活が苦しくなっていくのです。
親としての責任や、将来の幸せなど全く考えもせず、今ある現実から逃げようとするだけの親たち。
さらに愛する11歳の妹を、ロリコン男の嫁にやろうとする両親。
いくら金がないといえど、やっていい事と悪いことの分別を間違えてはいけない…!
両親のあまりの非情な行為に、12歳のゼインは怒りを爆発させ、立ち向かいますが、全く歯が立たず…。
あまりの悲しみと怒りに、親に愛想をつかしたゼインは、12歳にして家を飛び出す決心をします。
行く当てなんてないと分かっているのに、それでも家族から逃げることを選んだ少年。
その強い決断力が、観る者を圧倒させます。
ゼインの悲しく遠い目から感じる寂しさと、絶望、怒り…。
12歳にして、ここまでドン底の世界を知ってしまったら、私だったら立ち直れる気がしない…。
それくらい彼のとった行動は大人。
こうして、全てを悟った彼は、12歳にして立派な大人へと変貌していました。
優しい言葉なんてかけてもらったこともなく、いつも暴力や罵倒ばかりの生活。
痩せ細り、まるで小学校低学年くらいのガリガリの少年と成り果ててしまった彼が、何故ここまで必死に両親を訴えるのか?
裁判から見えてくる真実に、悲しみの涙をこらえることに必死でした。
特に、少年の悲しそうな表情がずっと脳に焼き付いていて離れません…。
『誰も知らない』という映画の柳楽優弥くんを観ているかのよう…。
あの虚ろで空っぽの目は、親を信用、信頼しなくなった証のように感じました。
あの目は、映画を観終わってもしばらく忘れることができそうにありません。
子供が大人を見限った時、あんな表情になるんだなと感じました。
今年観た洋画の中でも、一番印象に残るであろう作品。
今日試写会で出会えたことに感謝です。
ありがとうございました(^^)
育てるつもりもなく私を生んだ両親を訴えます
映画:CAPHARNAOM (アラビア語でカオスの意)
レバノン映画
邦題:「存在のない子供たち」
2018年カンヌ国際映画祭パルムドール審査員賞受賞
2018年アカデミー賞外国語映画賞候補作
ストーリーは
ベイルート。子だくさんのレバノン人家族が小さなアパートで暮らしている。父親に定職はなく、母親は、違法ドラッグを刑務所にいる男に差し入れして利ザヤを稼いでいた。小さなアパートに7人の子供たちが折り重なるように眠る。そして早朝から子供達は小さな体で大人顔負けに働かなければならない。12歳のザインは スクールバスで同じ年頃の子供達が学校に行くのを横に見ながら、自分の弟達や妹たちを連れて、野菜から作ったジュースを道端で売ったり、商店の配達を手伝ったりして僅かな賃金を得る。
ある日仕事を終えてアパートに戻ると、にわ鶏が何羽か届いていて、14歳になったばかりの姉が口紅をつけ化粧して中年の男の前に座らされている。ザインは怒って、姉の口紅を落とそうとするが、姉はすでに親に売られていくことを覚悟していて、ザインの抵抗を避け別れを告げて去っていく。
ザインは1歳年下の妹と特別に気が合って可愛がってきた。妹もザインを頼りにしていて、いつもザインの後をついて歩いている。ある朝ベッドに血痕をみつけたザインは、妹を洗面所に連れて行き、汚れた下着を洗ってやりながら、どんなことがあっても起こったことを親に言わないように命令する。そしてマーケットから盗んできたパッドを妹に渡して、汚れたパッドを家のゴミ箱に捨てないように、誰にも見つからないように捨てるよう言い渡す。ザインは妹を連れて家出する計画を立てる。しかし、間に合わなかった。マーケットでいつもザインの母親に色目を使っている商店主が、ザインの宝だった妹を連れ去る。妹は、ザインに助けを求め泣き叫びながら連れ去られた。ザインはたった11歳の妹を、わずかな金で売り渡した両親に絶望して、妹と乗って逃げる筈だった長距離バスにひとり乗る。目的地などない。下りたところは遊園地だった。そこで仕事を探して回るが、大人たちは誰も相手にしてくれない。
遊園地で掃除婦をしているラヒルは、腹をすかせたザインを見るに見かねて食べ物を与えるが、彼女はエチオピアから密航してきた違法難民で、生後1歳に満たない赤ちゃんをもっている。遊園地で働く間、バスルームに赤ちゃんを隠していて、職場の行き帰りは荷物カートで赤ちゃんを人目に触れないように連れて帰り、人にわからないように育てていた。遊園地で寝泊まりし、飢えていたザインを彼女は家に連れて帰り、赤ちゃんヨナスの世話を頼む。ラヒルはスクウオ―ターのような小屋に住んでいて、ヨナスが泣くと居られなくなるので、ザインはヨナスを泣かさないように、外にも出ないようにしてミルクを飲ませ、おむつを替えて、退屈して泣かさないように世話をした。
しかしある日、ラヒルは違法労働者狩りにつかまって警察署に連行される。ザインはヨナスを連れて遊園地やラヒルの知り合いのところを探し回るが、彼女の行先がわからない。商人は、赤ちゃんの世話に手を焼くザインの様子を見て、赤ちゃんを売らないか、ともちかける。ザインは家に戻り、昔母親がやっていたように違法ドラッグを手に入れて、それを薄めて売り、小金を作り赤ちゃんを食べさせていく。しかし家賃を入れていなかったので、ザインとヨナスは家を追い出されてしまう。家を失い、ザインは、ヨナスを自力で育てていけなくなって、遂に商売人の処に行く。イエメンの金持ちが子供を欲しがっている、と言われてザインは泣く泣くヨナスを置いて去る。ザインは同じストリートチルドレンの花売りが、身分証明書か、パスポートがあればスウェーデンに移住できると言われて、身分証明書を取りに、二度と帰らないつもりだった家に戻る。
迎えた両親は激高して、ザインを罵倒し殴る。身分証明書が欲しい、生まれた時の病院の証明書が欲しいというザインに向かって、両親は子供のために病院になど行ったことがない。たくさんの子供の生年月日などいちいち憶えていないし知らない、と言ったあと、父親が、病院に行ったのはザインの妹だけだ、と口を滑らせる。商人に売られて、ザインの助けを求めて泣き叫びながら去っていった妹は、買われた商人の言うままにならなかったため、食べ物を与えられず鎖に繋がれ、餓死同然で病院に運ばれて死んだのだった。ザインは、とっさに包丁を握ると商人の店に向かって走る。
刺された商人は車椅子生活者となり、12歳のザインは傷害罪で5年の懲役刑を言い渡される。ザインは法廷で、裁判長に求められるまま発言する。「僕は両親を訴えたい。人は尊重され、愛されるために生まれて来た。生まれてきた子供を育てられないならば、親は子を産むべきではない。」ザインは、どうして両親を訴えるのかと裁判長に問われて、「何故って ぼくが生まれて来たから。」と答える。
というストーリー。
カンヌ国際映画祭で映画のあと観客が総立ちで、15分間拍手が止まなかった、という話の通りのパワフルな映画だった。12歳の子供の口から出る正真正銘の「正しい言葉」のパワーに取りつかれて、映画の後もしばらく立ち上がれなかった。
「自分は12歳の今まで親から尊重されもしなければ、愛されもしなかった。生まれてきたこと、そのものが間違いだった。自分は罪を背負って生まれて来た。しかし生まれて来た子供を育てられないならば産んではいけない。育てられない子供を産んだ両親は罪に問われ、罰せられるべきだ。」子供が自分の身をもって証明した正論を、泣きじゃくりながら言うでもなく、叫ぶように訴えるでもなく、達観した哲学者のように淡々と裁判長に向かって言う子供の姿に胸がつぶれる想いだ。
一人としてプロの役者が出演していない映画。みな撮影場所の近隣で、普通の生活をしていた市井の人々を使って制作した映画。ザインの役を演じた12歳の少年の名は、本当にザインと言う名で、レバノンに住むシリア難民、8年間難民キャンプで暮らした少年だそうだ。フイルムは12時間の長い作品だったが、それを2年間かけて2時間半の作品にしたという。資金のない独立フイルムのため、制作者カルド モザナールは、自分の家を抵当にいれて映画製作をした という。パルムドールに選ばれたカンヌで、この映画の女性監督、レバノン人のナデイン バラキは、流暢なフランス語でアラブ世界に住む女性として、これからも女性の人権問題や貧困について発言していかなければならないことが多いが、ひるんではならないと立派なスピーチをしていた。
子供がひどい目に遭うということが、この世で一番許せない。世の仕組みも、金融資本家が人を牛耳り、トップ26人の超富裕層が全世界の総資本を独占している現状も、軍需産業が肥え太るために、世界各国に戦争の火だねを故意に撒き散らしていることも、全く知らずに生まれてきた子供たちが、自分達は何の罪もないのに飢え、殺され、ひどい目に遭うことが許せない。12歳の子供が、親から違法ドラッグ造りを強制されたり、配達を命じられていった先でレイプされそうになったり、理由もなくぶん殴られたり蹴られたりしても、ザインは決して泣いたりせず超然としていた。その子がエチオピア人の掃除婦に拾われて赤ちゃんの世話を任されて信頼感が生まれていたときに、彼女が家に戻ってこない。再び自分が棄てられたと思って、少年は初めて泣く。このシーンが哀しくてたまらない。そんなザインが決して自分とは赤の他人の赤ちゃんを捨てようとせず、懸命にミルクを手に入れて、働いて金を作り赤ちゃんを育てようとする。この映画の批評に、シーンごとに泣きます、と書いてあったが、本当。うなずける。ワンシーンワンシーン、しっかり泣かされる。
映画の中でザインは一度として、文字通り一度として笑顔を見せなかった。しかし、彼の画面いっぱいの笑顔で映画が終わるのだ。刑務所の中で身分証明書が作られる。お望みの身分証明書が作られるんだから、カメラに向かって笑って、と係官に言われて初めて見せるザインの笑顔の何と、今にも壊れそうなデリケートで、やわらかな少年の笑顔、、、。そこに低音で響くチェロの独奏。また涙。
ずっしり重いレバノン版『万引き家族』
レバノンの貧民街に暮らすゼインは学校にも行かせてもらえず家族の生計を助けるために色々な仕事をさせられているが兄弟思いの優しい少年。妹のサハールが近所の商店主と強制的に結婚させられたことに耐えられないゼインは家を飛び出し海沿いの町に辿り着き、小さな遊園地のレストランで働くエチオピア移民の女性ラヒールと出会う。ラヒールの息子ヨナスの世話をすることを条件に一緒に暮らし始めたゼインだったが、ある日ラヒールが家に戻らなくなり仕方なくヨナスを連れて町に出るが・・・。
冒頭にゼインが法廷に立つシーンから始まり、なぜ彼が法廷に立っているのかを紐解いていく構成。貧しい生活の中で身につけたサバイバルスキルと実に子供っぽいヤンチャさで厳しい世界を生き抜くゼインが辿り着いた自分の出生に関する真実、狡猾に振る舞う男達に不当に虐げられる移民達、そしてスクリーンの向こうから饐えた腐臭が漂って来そうな薄汚れた街並み。何もかもが凄惨な世界で、それでもゼインの置かれた現状を知り手を差し伸べる人達によって暗闇に微かな光が差し込む様がしんみりと胸に沁みる静かな感動作。
リオを舞台にブラジルを代表するフェルナンド・メイレレス、ジョゼ・パジーリャ他国内外の多彩なスタッフ、キャストによる短編10作によるオムニバス映画『リオ、アイラブユー』でハーヴェイ・カイテル主演の”O Milagre”を監督していたナディーン・ラバキーの監督作。”O Milagre”は神様から電話がかかってくると信じて公衆電話の傍から離れようとしない少年を巡るファンタジー、本作とも通底する厳しい現実を真正面から見つめる強さと包み込むような母性が印象的。どちらにも出演されている監督の確固たる理性を携えた凛とした美しさももちろんカッコいいですが、自ら演じる役を通じて主人公に対する自分の思いを滲ませるかのような演技も素晴らしいです。
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