「こんな業突張り爺さんに付き合わされるのかと思ったが」家(うち)へ帰ろう りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
こんな業突張り爺さんに付き合わされるのかと思ったが
アルゼンチンはブエノスアイレス。
88歳になる元仕立屋のアブラハム(ミゲル・アンヘル・ソラ)は、家族の強引な奨めで老人ホームに入ることになった。
気がかりなのは、最後に仕立てたスーツのこと。
スーツそのものではなく、第二次世界大戦末期、生まれ故郷のポーランドでの出来事が気にかかる・・・
というところから始まる物語で、件のスーツを命の恩人のポーランド人の幼馴染に手渡したい、ということで家族に黙ってポーランドへ旅立っていく。
アブラハムはユダヤ人で、第二次世界大戦のポーランドで辛酸を舐めた。
そんな彼を救ってくれたポーランド人の幼馴染に再開したいというものだ。
物語はシンプルなロードムービーで、概ね4つのパートに分かれる。
まずは、アルゼンチンを飛行機で旅立つまで。
次は、経由地スペインでパリ行きの列車に乗るまで。
続いて、パリからポーランドまでの列車での移動。
最後は、ポーランドでの終幕。
なのだけれど、オープニング早々のエピソードで、ちょっと癖癖してしまいました。
それは、永年暮らした家を離れるので孫たちと記念写真を撮ろうというエピソードで、孫のひとりがゴネて参加しない。
だが、孫娘はスマホを買いたい、お金を出してくれたら、一緒に写るといい、アブラハムと駆け引きが始まります。
その駆け引きのユダヤ人的なこと。
老いも幼きも、がめつい、がめつい。
こんな爺さんにこの後も付き合うのかと思うと、ちょっと辟易で、こんな感じはスペインでの宿泊費の値引き交渉にも登場し、このあたりでちょっと降参しようかとも思いました。
なのですが、道中、助けてくれる女性たちに絆され、爺さんもちょっと丸くなって折れるので、最後まで付き合えました。
列車旅での道連れ女性や、ポーランドの看護婦など、優しすぎるきらいがないこともないのですが、でもまぁ、年配のユダヤ人にはこれぐらい優しくなければいけないかもしれません。
なにせ、彼は先の大戦での迫害の被害者なのですから。
で、結局のところ、彼の旅の目的は果たされるわけですが、心温まるけれども少々物足りない。
心優しい結末でない方が、さらに深みが増したような気もするのですが・・・