家(うち)へ帰ろう : 映画評論・批評

家(うち)へ帰ろう

劇場公開日 2018年12月22日
2018年12月11日更新 2018年12月22日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー

二度見推奨。数々のさりげない場面に感涙ポイントが隠れている

ホロコーストを題材にしながら、ユーモアを交えて軽妙に、感動的にストーリーを語るのは相当にハードルが高い難業だろうが、少ないもののあるにはある。説明不要の名作「ライフ・イズ・ビューティフル」や、ホロコーストの加害者と被害者それぞれの孫世代が互いに惹かれ合う近年の意欲作「ブルーム・オブ・イエスタディ」などが挙げられるが、本作「家(うち)へ帰ろう」もまた、そうした貴重な映画の一本に数えられるだろう。

形式はシンプルなロードムービーだ。第二次大戦時にポーランドで迫害され、戦後アルゼンチンに移り住んだ仕立職人のユダヤ人・アブラハムが、かつて命を救ってくれた親友に作った「最後のスーツ」を届けるため、70数年ぶりに故郷へ向かう。ミゲル・アンヘル・ソラが老けメイクで実年齢より20歳も上の高齢者になり切ったこの主人公は、頑固で皮肉屋で、ユダヤ人らしいしたたかさを備え(小学生ほどの孫娘と大真面目に小遣いの値段交渉も)、それでいてどこか愛嬌があり、いざというときは人助けもする。なんとも個性的で粋なじいさんなのだ。

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強制収容時の後遺症で自由のきかない片足を引きずりながら、片道航空券でヨーロッパに渡った米寿のアブラハムは、恩人との再会のほかに、長らく気がかりだったもう一つのことにも向き合う。そう遠くない最期を迎えるときに心残りがないよう、積年の懸案を解決すべく旅を続ける姿は、なにやら“終活”の気配さえ漂う。そんな彼の行く先々で救いの手を差し伸べるのが、美魔女のホテルオーナー、知的なドイツ人文化人類学者、しなやかな強さを感じさせる看護師という3人のチャーミングな女性。母性を感じさせる彼女たちの思いやりに、頑ななアブラハムの心が少しずつ解きほぐされていく過程も、実に巧みに構成されている。

監督・脚本のパブロ・ソラルスは、1969年生まれという戦後世代のユダヤ系アルゼンチン人。自身の祖父と父の体験や言動、それに偶然カフェで聞いたホロコースト生存者の息子の話に着想を得て、アブラハムと家族、そして旅先で出会う人々の物語を紡ぎ出した。派手さこそないが、隅々にまで気が配られ丁寧に仕立てられた本作は、まるで上質のスーツのように心地よく、繰り返し観るほどに心身に馴染んで味わいを増す。可能ならぜひ再見して、細部に込められた意図をしっかり感じ取っていただきたい。

高森郁哉

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