「まだるっこい語り口ながら、喪われた祖国への想いを感じる」希望の灯り りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
まだるっこい語り口ながら、喪われた祖国への想いを感じる
東西統一後、しばらくしてからのドイツの大型スーパーマーケット。
場所は、旧・東ドイツの都市郊外だ。
店では、夜になるとフォークリフトが店内を移動し、在庫の補充をしている。
そんな中、内気な青年クリスティアン(フランツ・ロゴフスキ)は、ここでの飲料部在庫管理担当として働き始めることができた。
彼に付いた上司は旧東ドイツ出身の中年男ブルーノ(ペーター・クルト)。
無骨にクリスティアンを指導していくが、クリスティアンは通路ひとつ隔てた食品・菓子部の女性マリオン(ザンドラ・ヒュラー)と出逢い、心惹かれていく・・・
というところからはじまる物語で、骨子だけ取り出せば、まぁ、どこにでもあるたいしたハナシでもない。
特に前半は、冒頭の「美しき青きドナウ」に乗せて夜間の広大なスーパーマーケットを行き交うフォークリフトが甘美な映像ともいえるのだけれど、それはそれでやりすぎでもある。
統一後の東側青年には、それが甘美に見えるということなのかもしれないが、これは観客向きの映像、クリスティアンが観ることなどない。
というわけで、冒頭から少々懐疑的な観方になってしまったのだけれど、映画が内包している旧東ドイツの青年(いやブルーノも含めて老齢の男たちもだが)の立ち位置、そんなところが映画の中で屹立するのは中盤(というより終盤に近い)以降。
なので、映画の語り口としては、まだるっこい。
内容も映像表現もジム・ジャームッシュ監督やアキ・カウリスマキ監督に似ているところはあるけれども、それほど洗練されておらず、もっさりした感じで、30分ぐらい尺を縮めた方がいいんじゃないかといった感じ。
主人公が心寄せるマリオン役のザンドラ・ヒュラーのどうってことない色気と、質実剛健的な風貌のブルーノ役ペーター・クルト、それに主役フランツ・ロゴフスキの人生経験豊富なのにナイーブな雰囲気というアンサンブルは捨てがたい。