「現代版姥捨山」愛しのアイリーン kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
現代版姥捨山
中盤までは普通のコメディかと思っていたが、嫁のアイリーンがヤクザ者の塩崎(伊勢谷友介)に連れ去られてからは登場キャラが皆キレてしまう。このぶっ飛び方は狂気、アドレナリン上昇、精力絶倫、などとどんな言葉も当てはまらないくらい凄い!一体誰が悪者なのか・・・いや、皆何かに狂わされている。どこにも無いようなストーリー展開にやられてしまった。
まず描かれるのは田舎にありがちな嫁不足。それは岩男(安田)だけだったのかもしれないが、この舞台となる寒村には噂話がすぐさま広がり、何をやっても筒抜けになってしまうという、大らかのようであり、またひがみや嫌悪感、妬みややっかみが渦巻いている。そもそもこんな村にパチンコ屋が進出していること自体が外界から悪意を蔓延させているのだろう。
マッチングの不具合とも言うべきか、岩男が愛子にアタックできずにいたら、同僚に寝取られてしまった。結局はヤリ〇ンだとか元夫は刑務所にいるだとかの噂も絶えないくらいの愛子。彼女もまた田舎にそぐわない。そして、愛を知らずに42歳まで独り身の岩男は女性店長の都合の良いセックス相手となってしまっていた。そして交通事故により頭のネジが緩んで吹っ切れたのか、フィリピンへ嫁探しに行ってしまったのだ。
連れ帰った嫁アイリーンはツルの殺意にも似た暴力から守ろうとするが、二人は金で売買された仲という自責の念からも性的関係がスムーズにいかない。もともとアイリーンには愛すらなかったのだ。ところが、塩崎を猟銃で殺してしまってからは恐怖と不安を共有した二人の愛欲がピークに達し、ようやく愛を確かめ合うという皮肉。さらに精力絶倫となった岩男が愛子とも関係を持つことに・・・
何度も血を噴く安田顕も痛々しいし、母親ツル(木野花)に何度も殴られるアイリーンも痛々しい。そこには異常なまでの息子思いの姿があるのだけれど、人種差別も想像以上のものがあった。琴美(桜まゆみ)を嫁さんにしたいがため狂ったような行動にも出るが、その琴美への質問がラストへの伏線となる。「旦那と親はどっちが大事?」「子供ができたらどう?」などと、常識的だが偏執的なところを狂気じみた演技で圧倒する。
また、ヤスケンの自慰行為は琴美に対してもアイリーンに対しても行われるが、それもまた悲哀に満ちて痛々しい。その不能ぶりも人を殺したことで吹っ切れるのだが、ある意味、動物的な岩男を晒け出している。ただ、金か愛かというテーマと、塩崎の復讐心はどうも絡み合ってない気もするし、その点では岩男の方が動物的ではあるが人間臭さが漂って好感が持てるのだ。
愛おしさではアイリーン、愛子、マリーン、それぞれに魅力があるのですが、アイリーンに関しては義母を「かっちゃん」と呼んでいたのに最後には「クソババァ」になるところで醒めてしまいました。十字架を握りしめて般若心経を唱えるところや、「ウバステ?」と、日本語を覚えていたのはえらかったですけどね。また、子供を宿したことを知ったときに鬼の顔から仏の顔に変わる木野花もいい!