「本気で愛し合う岩男とアイリーンの姿を捉える一瞬が、とてつもなく神々しい」愛しのアイリーン Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
本気で愛し合う岩男とアイリーンの姿を捉える一瞬が、とてつもなく神々しい
良くも悪くも賛否両論あるということは、ちゃんと問題提起ができているということ。
圧倒的な熱量の作品で、「R15+」である以上に、その暴力表現、性表現に嫌悪感さえ抱く人がいてもおかしくない、激しい振り切り方である。監督は「ヒメアノ~ル」(2016)の吉田恵輔監督。
タイトルの"アイリーン"は、地方で42歳まで独身だったオトコが迎えたフィリピン人の若妻の名前。もちろん経済援助を前提とした国際お見合い婚である。嫁問題、後継者問題に直面する地方の農村が抱える現実を描いた新井英樹のマンガを原作としている。
予備知識なしに鑑賞すると、ぶったまげるかもしれないが、こんなにマンガ的でナンセンスな事象はありえない。その突き抜けた描写に否定的になるのはどうだろう。ある意味でこれはコメディ映画なのに・・・。笑って観るくらいの余裕がほしいものだ。
これは問題提起のための設定である。それを無視して、本作を断罪する人のほうがナンセンスである。
そしてもっとも重要なのは、この映画の登場人物は"性善説の人々"で、みんな心優しい人だということ。
普段は、両親や我が子、配偶者や兄弟・友人に愛をもって接することのできる人々が、時代変化についていけず、社会通念や誤解に追い込まれて、自己コントロールできなくなってしまう。
誰にでも起きるかもしれない窮地を、ありえないくらい大げさに表現している。だから卑猥な言葉も連呼するし、言葉足らずから生まれた誤解に苦しんでいる。
母や家族のために日本人に嫁ぐことを決意したアイリーンは、ホントは愛ある恋愛結婚をしたい。岩男(いわお)は、両親思いで、同僚の子持ち女に恋する純情な男性。そして度重なる流産の末にようやく授かった一人息子を愛しすぎる岩男の母。
また伊勢谷友介演じるヤクザの塩崎も、フィリピン人である母親との母子家庭に育ち、自分に似た境遇のハーフの置かれた現状をだれよりも理解している。
一瞬だけ、本気で愛し合う岩男とアイリーンの姿を捉えるシーンが、とてつもなく神々しい。
みんな、人の痛みのわかる人たちが愛ある行動に基づいているのに、なぜか暴力的になる。そして悲劇的な結末を迎えてしまう。こんな哀しい笑い話があるだろうか...。ほんとに素敵な映画だと思う。
(2018/9/15/TOHOシネマズシャンテ/ビスタ)