パティ・ケイク$ : 映画評論・批評
2018年4月17日更新
2018年4月27日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー
母娘を演じた役者たちの “生き様”と呼ぶしかない、演技を超えたヤバさ
ホワイト・トラッシュの23歳女子がラップでサクセスを目指す物語。「パティ・ケイク$」を端的に説明しようとすればそうなる。太っているせいで町中から“ダンボ”とあだ名されるパトリシアは、元ロック歌手の母親と車椅子の祖母との3人暮らし。アル中の母は家計をパトリシアに依存し、バイトの掛け持ちで忙しいのに祖母の介護も押し付けられている。どこにも出口が見えない掃きだめの日々。だがひとたびライムを口にすれば無敵のラッパー“パティ・ケイク$(ケイクス)”aka“キラーP”に早変わり!
貧しい境遇から抜け出そうと音楽に打ち込むヒロイン、という図式は、音楽青春映画が繰り返し扱ってきた定番中の定番。新味があるわけではないが王道の鉄板ストーリーであり、スポーツに詳しくない人もスポーツ映画で盛り上がれるように、ヒップホップファンでなくてもパトリシアを応援せずにはいられないはずだ。
実際のところ、本作は過去に繰り返し語られてきたオーソドックスな青春映画の一バリエーションからハミ出してはいない。その意味で驚きは少ないけれど、安定感のある爽快な一篇、という位置づけで終わってもおかしくはなかった。
ところが、である。本作に濃厚な“魂”を吹き込んだのが、パトリシア役の新星ダニエル・マクドナルド、母バーブ役のブリジット・エヴァレット、そして祖母ナナ役のキャシー・モリアーティという三世代に渡る母娘を演じた役者たち。特にエヴァレットとモリアーティが画面に映った時に放たれる「あたしの人生、いいことなんてほとんどなかった」と言いたげな歳月の重みが、正攻法の脚本にとてつもない膨らみと奥行きをもたらしているのだ。
母親役のエヴァレットは、歌唱力と下ネタパフォーマンスが売りの名コメディエンヌで、祖母役のモリアーティはズブの素人から「レイジング・ブル」のデ・ニーロの相手役に抜擢されてデビューを飾った伝説の女優。彼女たちの肉体と表情、そして発声には“生き様”と呼ぶしかない演技を超えたヤバさがあって、最も若いダニエルも、みごとにそのヤバさを継承しているのが素晴らしい。
もうひとつ音楽について付け加えると、三世代の母娘の物語だけに、シナトラからスプリングスティーンに代表される地元系ロック、そして苛酷な現実に対抗する手段としてのギャングスタラップへと、音楽のバトンが繋がれているのが伝わってくるのがとてもいい。それだけで涙腺が決壊する危険があることをここに警告しておきます!
(村山章)