劇場公開日 2018年9月22日

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「見せ方が抜群にうまい」バッド・ジーニアス 危険な天才たち うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5見せ方が抜群にうまい

2023年5月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

レビューの評価が高かったので、期待して劇場に行きました。とても面白かった。タイ映画ということで、現地の俳優さんたちが出演しているようですが、外見は日本人と同じ。変わったファッションや、変な食べ物も出てこないので、タイ語を記述するシーン以外は、まるで日本の映画を見ているようです。もし日本語吹き替え版があれば、子供でも楽しめる内容です。PG12のレーティングは、カンニングという行為そのものの倫理観を、きちんと教育できる大人の同伴が望ましいという判断でしょう。

そのこと自体の是非はともかく、映画の内容は見ごたえのある心理描写が続きます。俳優さんたちが本当にうまい。そして、見せ方が抜群にうまい。シンプルなストーリーをていねいに、細部にわたるまでじっくり考察して、一つ一つのファクトを構築していく語り方は、最後まで飽きさせません。ちょっと謎めいたエンディングは、続編をにおわせる展開で、この天才少女が果たしてこののちにたどる運命がどうなるのか気になります。

特に、感心したのが、少女のライバルの天才の男の子を演じたチャーノン・サンティナトーンクン。複雑な役回りで、ある意味、主人公以上にストーリーの大きなカギを握る人物で、俳優しだいではものすごく嫌われてしまう役なのに、むしろ共感さえ覚えるほどに心理状態をていねいに掬い取っています。主人公の少女との、友情でもなく、ライバル心理でもない、奇妙なパートナーシップの描き方が素晴らしい。

音楽の使い方も秀逸で、ABCDの回答の選択肢をピアノのコードになぞらえて、音で丸暗記するシーンなど、イメージの中で試験会場なのにピアノを弾いているヴィジュアルなど、鮮やかな演出です。

まあ、カンニングという行為自体の是非はともかく、たとえば『万引き家族』なんて映画がグランプリを受賞するご時世なので、大切なのは、主人公に共感できるかどうかだと思います。彼女自身は非常に優秀で、問題は友達をどうやって合格させるかということなので、私は共感できました。

監督のプロフィールを見ると、実家がレンタルビデオ屋さんということで、私には新世代の映画監督に思えました。子供のころからハリウッド映画を見て育ったということらしいです。道理で、映画の文法がハリウッド的。なぜ日本人にこれが撮れないのかと思います。やはり、自分で脚本が書けることと、明確なビジョンを持つこと。この2点は外せないようです。日本の映画では、極端に低予算に振り切って、自分で何でもやってしまうか、アニメーション作品で作家性を前面に打ち出すかでしか、勝負できていないように思えます。純粋に娯楽性でハリウッド映画に伍している映画が少ないのは、残念ですが、この監督さんは、近い将来必ずハリウッドデビューするだろうと確信しました。

うそつきカモメ