「カンニングを洗練された犯罪映画として描くバカバカしさが大成功!」バッド・ジーニアス 危険な天才たち 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
カンニングを洗練された犯罪映画として描くバカバカしさが大成功!
これは本当に面白かった!天才的な学力を持つ高校生が壮大なミッションに取り掛かる。そのミッションとは、カンニング!というバカバカしさがもうたまらない。これが高価な美術品を盗むだの、金品を強奪するだのという話だったら全然面白くない。だってそんなの普通だもの。彼らが真剣に大変なミッションをやっているのだけれど、すべてはカンニングのためであるというところが大成功の元。鉛筆を喉に突っ込んだりしてもすべてはカンニングのため。大金を叩くのもカンニングのため。血を流してもカンニングのため。大掛かりな作戦もすべてカンニングのため。あぁなんて馬鹿らしくてなんて素晴らしいのだろう。
この映画はカンニングの魅せ方がまた上手で実に楽しい。冒頭の消しゴムを靴に忍ばせる一連の展開のシーン捌きでその手際の良さは一目瞭然。それこそ、007のようなスパイ映画を彷彿とさせるようなスタイリッシュさとスピード感があり、その後の様々なカンニング大作戦の演出までその手際の良さは見事に持続。最後の最後までスタイリッシュで洗練された演出。そうしてスピード感あふれる洗練された演出をとればとるほど、そしてそれらの演出が成功すればするほどに、やっていることがたかだかカンニングであるというバカバカしさが更に効いてきてもう最高。
登場人物の捌き方も巧い。主人公の天才高校生のややふてぶてしいような表情や態度もまた孤高の秀才というイメージで個性的に輝くし(手足の長さと顔の小ささでファッションモデルみたいだと思ったらどうやら実際の女優さんはファッションモデルさんだったらしい。納得)、自分が可愛いことを自覚している自己顕示欲のやたら強い(でもマヌケなほど人が好い)女友達のキャラクター性も、そのボーイフレンドの自惚れの強さも、もう一人の奨学生の心理の転換も、さらには主人公の父親(彼の教師である)の描写に至るまで、登場人物の描き込みがもう完璧。カンニングをスパイ映画さながらに見せるコメディだと割り切って開き直るのではなく、細部に至るまでしっかりと練り込んで作っているのが良く分かる。今や伝説の「That's!カンニング」とはわけが違う(ちなみに私は「That's!カンニング」を映画館で観た奇特な人間だ)。
演出・脚本・演技・編集。全体的に良く仕上げられていて、その上で完全なエンターテインメントとしてまとめられている。こりゃ面白いわけだ。