30年後の同窓会 : 映画評論・批評
2018年6月5日更新
2018年6月8日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
リンクレイターの成熟と偶然の時代性がベテラン3人衆の旅に深みを加えた
リチャード・リンクレイター監督の最新作「30年後の同窓会」は、ハル・アシュビー監督、ジャック・ニコルソン主演で1973年に公開された「さらば冬のかもめ」の“精神的な続編”とされる。どういう意味か? 後者の原作小説を書いたダリル・ポニックサンは、主要登場人物3人が共通する続編小説を2005年に発表。リンクレイターはポニックサンと共同で脚本を練り、小説の大筋は残しながらもキャラクターの名前と若干の設定を変え、独立した作品として映画化したのだ。
「さらば冬のかもめ」を手短に紹介すると、荒くれの海軍士官2人が、微罪を犯した新兵をバージニア州のノーフォーク基地からニューハンプシャー州のポーツマス海軍刑務所に護送する任務に就くが、道中で3人に奇妙な友情が芽生えていくというストーリー。一方「30年後の同窓会」では、元海兵隊員のサルとミューラー、年下の元海軍衛生兵ドクは、30年前ベトナム戦争を共に戦った仲間。ノーフォークでサルが経営する店にドクが現れるところから始まり、現在は神父になっているミューラーと合流し、イラク戦争で戦死したドクの息子の遺体を埋葬するため、3人はドクの家があるポーツマスへと向かう。そう、“精神的な前作”の旅をなぞるかのように――単にルートが重なるだけでなく、飲んで遊んで電車に乗り遅れるエピソードなども反復される――本作の3人も旅を続けていくうち、それぞれの心境に変化が訪れ、友情を取り戻す。そして、逃れようとしてきた過去に向き合うことになるのだ。
妻と息子を相次いで失い悲嘆に暮れるドク役のスティーブ・カレル、酒浸りでジョーク好きなサル役のブライアン・クランストン、旅に気乗りせず不機嫌なミューラー役のローレンス・フィッシュバーン、3人の演技のバランスが抜群だ。監督は俳優たちと3週間に及ぶリハーサルを行い、彼らのやり取りを見て脚本をブラッシュアップしていったという。コメディを中心に多様な作品を手掛けてきたリンクレイターだが、3人の娘を持つ50代の今、家族への愛、長年の友情、大切な人を失う悲しみといった要素を、抑えた演出と鈍色の映像で描くあたりに成熟ぶりを感じさせる。
ベトナム戦争と9.11後のイラク戦争を重ね、権力者の嘘と隠蔽、正義と愛国心、戦場で失われる命について問いを投げかける本作には、原作発表から10年以上を経て映画化されたことで、図らずも“トランプの時代”の影が差すことになった。偶然とはいえ時代性を獲得したことで、作品のメッセージが深化し、今見るべき映画としての価値が高まった点も感慨深い。
(高森郁哉)