「天使のような瞳と心の不屈の戦士」アリータ バトル・エンジェル 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
天使のような瞳と心の不屈の戦士
原作は未読だが、ジェームズ・キャメロンが日本のコミック『銃夢』を映画化すると言ったのはいつの事だったか。確か、『タイタニック』のすぐ後だった気がする。
それからどれほどの歳月が流れただろうか。遂に、お披露目。
キャメロン製作×ロバート・ロドリゲス監督というビッグタッグもさることながら、なかなか意表を付く形で!
主人公のサイボーグ少女、アリータ。
このヒロインをどう描くか。
映画化の企画がスタートした当初は生身の女優が演じていたであろう。
しかし、技術が進歩し、遥か遠い惑星で青い住人を創造したキャメロンが選んだ手法は、パフォーマンス・キャプチャーによるフルCG。
全く違和感ナシ!…とは言い難かった。
さすがに生身の俳優と並ぶと違和感が…。
それに多くの方が指摘している通り、初めてそのビジュアルを見た時から気になって仕方ない、通常の1・25倍の“ビッグ・アイ”。
正直言うと、申し訳ないが、気味悪さすら感じた。
が、そのビジュアルは原作者が絶賛するほど忠実だとか。後から原作の画像をチェックしてみたが、確かに!
キャメロンの原作愛やこだわりを感じ、ある意味これは理想的な“実写化”ではなかろうか。
こういう技術/手法ならば、例えば『ドラゴンボール』の“ちゃんとした”実写映画化も不可能ではない。原作そのままの姿で悟空たちを…。とは言え、もうやって欲しくないけど。
そのクオリティーの高さはさすが!
なびく髪、水に濡れた質感などは、これぞ現代ハリウッド技術!
違和感あるとか気味悪いとか散々言ったが、それでも見慣れてくると、不思議と魅力的に見えてくる。
それを魅せてくれるのが、アクション!
小柄で華奢、大きな瞳の少女漫画のヒロインのようなアリータだが、その容姿から信じられないほどの身体能力&アクション・スキル!
アクロバティックでしなやかで華麗であると同時に、メチャンコ強ェ~!
たった一人で大勢の大柄な敵をバッタバッタ倒す。
ただ力が強いだけじゃなく、不屈の精神。
中盤、強敵によって身体を切断させられた絶体絶命になっても、決して諦めない。尚も闘う。
あの大きな瞳が凛々しく見える。
まさしく、“バトル・エンジェル”!
強いヒロイン好きのキャメロンのベタ惚れぶりも頷ける。
勿論それは、CGの下に隠されたものの、演じたローサ・サラザールの魅力と存在感あってこそ。
アクションはふんだんに盛り込まれているが、特に民主が熱狂する“モーターボール”が圧巻。
競技と言うより、殺し合い。
ローラースケートで滑りながら、襲い掛かる敵と闘う。
その迫力、スピーディーさは、本作最大のワクワクハラハラドキドキ見せ場!
アリータや他のサイボーグ戦士たち以外は生身の俳優。
アリータの“味方”と“敵”。奇しくも、短期間の内にオスカー助演賞を2度受賞した2人。
クズ鉄の中から見付け、修復し、“アリータ”と名付けたサイバー医師のイド。街の治安を守る“ハンター・ウォリアー”でもあり、アリータに父親のような愛情を注ぐ。クリストフ・ヴァルツがいつもながらの巧演。
モーターボールのオーナーで、街のフィクサーであるベクター。刺客を送り込み、アリータを狙う。ステレオタイプの悪役かと思いきや、“ベクター時”と“ある者”が宿った時の演じ分けは、こちらもさすがのマハーシャラ・アリ。それにしても、黒い服にサングラス姿は、抜擢されたヴァンパイア・ヒーローを期待させる。
話や設定は…
300年前に大戦争があった未来世界。
空中都市と下界に分断。
支配する者と支配される者。
時折蘇る過去の記憶。
自分は何者か、何の為に闘うのか。
そして、目覚め…。
未来SFやサイバー・アクションの王道的展開/要素で、原作発表時は斬新だったろうが、映画化が遅れに遅れた今となっちゃあ特筆した目新しさは無い。
ストーリーは分かり易く、アクションもいっぱいだが、一番激しいアクションはその中盤のモーターボール・シーンで、クライマックスは勿論スリリングではあるが、少々尻窄み。
そこら辺、ちと物足りなく、残念。
地球と火星連邦共和国=URMが争った300年前の大戦。
その大戦時、URMの兵器として造られたアリータ。
人間たちの敵だったのはかつての事。
今、アリータはアリータだ。
彼女の不屈の姿に突き動かされたのは映画化を熱望したキャメロンだけじゃなく、彼女と心を通わせお互い惹かれ合った青年ヒューゴも。ベクターとある約束を交わし(実は偽り)、ある犯罪を犯す彼を変える。
確かに彼女はサイボーグだ。が、人よりも人の心を持っている。
そして、機械の身体でありながら、誰かの為に涙を流せる。
が、今は涙を流す時じゃない。
涙すら斬り裂き、彼女の闘いは始まったばかり。
天使のような瞳と心の不屈の戦士!
続編を匂わせるラスト。
アリータの力を以てしても興行的に苦戦したようだが、一部では人気を博し、キャメロンも絶対本作一本で終わらせたくないだろうし、期待出来そう。