「すごく濃厚なドラマが隠されている。」万引き家族 ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
すごく濃厚なドラマが隠されている。
祥太と治の関係という切り口で観ると、
祥太が大人として成長していく切ない物語。
祥太の身体的に大人になっていく描写は性への興味から語られますが、心が成長していく描写がとても綺麗に描かれていた。子供としての存在から対等な存在、治の行動に疑問を持ちわざと捕まるという選択、そして大人へと成長し治を追い越していく(ラストでバスに乗り治を置いていく、治は走るが追いつかない。)切ないラスト。声に出していないセリフ(おとうさん。)が泣かせます。
亜紀とおばあちゃんという切り口で観ると、
バイト先で亜紀は自分の妹の名前である"さやか"を名乗る。
そのことだけであの家族の中で彼女は一体どんな立場だったのか、想像が膨らんでしまう。自分を殴る。ラストの手の傷がとても切ない。
初枝と亜紀の両親との間にある見えない緊張感。ギャンブルで人のドル箱を平気で盗むが、両親から渡された金に手を付けなかった初枝はやはり亜紀のことは特別だったのだろうか。
これはほんの一部の切り口であるが、些細な日常描写に見えるカットの一つ一つが、非常に意味が込められているのがわかる。言葉ではなく映像で語っている。
セリフでは家族でいること一緒にいることが、金や犯罪としての繋がりとして説明されるが、映像で語っていることは違う。例えば亜紀は「おばあちゃんはお金の為に私と一緒にいたのかなぁ」と悲しむが、本当はそうではないということを観客は知っている。
これこそ映画だなぁと思う。
本作は「誰も知らない」から「そして父になる」の流れを汲んだ作品で、特に強いメッセージとかわかりやすいテーマを込めた作品ではありません。わかりやすい娯楽大作が多い大きなシネコン等で観ると"地味な作品"と思われてもしかたないと思います。
是枝監督はわかりやすく演出して写したものよりも、撮影現場でたまたま映り込んでしまったものや、予期していない化学反応(俳優の演技、子供の表情とか)などの奇跡のようなことに価値を感じているようで、
樹木希林さんの海辺での声に出していない言葉「ありがとうございます。」は台本にはなく樹木希林さんのアドリブで、まさに、独りではなく賑やかな家族に囲まれたおばあちゃんの最後の一言にはこれ以上の言葉はないんじゃないか?という奇跡。このシーンの撮影はかなり早い段階で行われたそうなのですが、監督はこの樹木希林さんの演技をみてシナリオを変えたそうです。
このように奇跡を信じて現場で作り上げたような作品だと思います。最後のバスでの祥太くんの声に出していない「おとうさん。」というセリフも確実にあのアドリブから派生しています。
メッセージやテーマではなく喜怒哀楽の"怒"の感情を込めたと監督が言っていましたが、その感情は物語終盤からものすごい勢いで伝わってきました。監督のブログでの言葉を借りるなら、インビジブルなものが画面から伝わってきました。
全てが収まるべきところに収まったのだが、本当にそれでよかったのだろうか。
このシステム(法律?道徳?)は本当にあの子を救ったのだろうか?
ラストのラストで私の中でよくわからない感情が溢れ出てきました。
カンヌ国際映画祭でのパルムドール受賞、テーマは是枝監督のブログにも書いてありますが、インビジブル・ピープルの存在に光を当てることが今回の受賞式でのテーマとケイト・ブランシェット様が言ったそうです。
「誰も知らない」でもよかった。本作で受賞できて本当によかったと思う。