「"よそう。また夢になるといけねえ …。"」億男 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
"よそう。また夢になるといけねえ …。"
東宝のプロデューサーである川村元気の原作小説の映画化。
川村元気は若干39歳ながら、プロデューサーとして数々のヒット映画を企画していて、テーマ(原作)・監督・キャスティング・クリエイティブといった人材の化学反応を見事に引き出す。なかでも有名なのは、やはりアニメ「君の名は。」(2016)の空前の大ヒットであろう。また原作者としても、「世界から猫が消えたなら」(2016)や、「映画ドラえもん のび太の宝島」(2018)の脚本を書きおろしている。映画の企画屋としての成功者である。
本作はつくづく"企画屋さん"の考えそうな仕掛け映画である。決して悪い意味ではないが、"TSUTAYA CREATORS'PROGRAM"の作品(「嘘を愛する女」や「ルームロンダリング」)と同じ匂いがする。アタマで計算してヒットを狙った感じだ。
主演に佐藤健と高橋一生。共演に藤原竜也や北村一輝、沢尻エリカ、いまが旬の池田エライザ、そして引く手あまたの黒木華である。
きっとライバルの映画プロデューサーたちも憧れる、思い通りのキャスティングといっていい(勝ち組はなんでもできる)。
失踪した兄の借金3000万円を肩代わりした主人公・一男(佐藤健)。借金に追われる一男に愛想を尽かした妻(黒木華)は娘を連れて別居状態である。そんな一男に3億円の宝くじが当選する。高額当選に不安になった一男は、大学時代の親友・九十九にアドバイスをもらうため訪ねたが、酔いつぶれてしまい目が覚めると、九十九は3億円とともに消えてしまった。
なるほどこの映画、古典落語の"芝浜"なのね。夫婦の愛情を暖かく描いた、サゲ(オチ)のある屈指の人情噺だ。
"芝浜"の主人公は、魚の行商をしている勝。大酒呑みでうだつが上がらない。ある日、妻に朝早く叩き起こされたが、魚市場は時間が早過ぎたためまだ開いていない。誰もいない浜辺で顔を洗っていると、大金の入った財布を海中に見つける。仕事もせずに飛んで帰り、さっそく飲み仲間を集めて大酒を呑む。翌日、二日酔いで起きると、妻に"こんなに呑んで支払いをどうするのか"と問いただされる。勝は拾った財布の金のことを訴えるが、妻は"夢でも見たんでしょ"と言う…。
映画は、"芝浜"を原案としているものの、サゲが異なる。むしろ主人公の2人は大学落研に所属していて、"芝浜"のフレーズがたびたび出てくるので、ネタバレ前提のオマージュといったらいいか。ただし、ちゃんと人情噺にはなっているので、それなりに膝を叩くことができる。
"よそう。また夢になるといけねえ …。"
古典落語が永く愛されるのは、そのテーマの普遍性である。そういう意味では古典落語の中にはまだまだ映画化できるものが多くある。
同じコンセプトでいえば「らくごえいが」(2013)を思い出す。古典落語の"ねずみ"、"死神"、"猿後家(さるごけ)"を元に現代アレンジしたオムニバス映画だったが、なかなかよくできていた。
ちなみに"死神"を原案とした「ライフ・レート」では、山田孝之と安田顕、女優デビュー直後の本田翼が出演しているので、この機会にあらためて観てみるのも面白い。
(2018/10/20/TOHOシネマズ日本橋/ビスタ)