「その盃、お断りします。」億男 bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
その盃、お断りします。
適当に振ったバットにボールが当たって、みたいなヤツが年に数本あるけど、これがそうだとは。。。ホームランとは言えないけれど。
三億円と共に消えた、かつての親友を探す一男は三人の男女の元を訪れます。三人は三様に金について語ります。クリスマスキャロルみたい。
百瀬は、金には実体などなく流れ消えて行くものだと言う。彼にとって、金は留まることなく右から左へ通り過ぎるものなのでしょう。
千住は、金は神様の様なもの。皆がひれ伏す宗教だ、と力んで主張。彼自身が金に平伏しているのに、神になった気の様です。
十和子は金に背を向けた様な生活を送っていましたが、実のところ、金で女を買う男達と、金で自分を売る女達から隠れる場所が欲しかっただけみたいです。実際彼女は、金を壁に襖に扉の裏に隠して、札束に囲まれた部屋にこもっています。
一男に金の何たるかを考えさせたのは別居中の妻、万佐子でした。万佐子が一男の元を去ろうとしているのは、借金のせいでは無い。借金を返す事だけのために、愛やら子供の夢やらと言う甘ったるいものを忘れ、すっかり変わってしまった一男が嫌だっただけ。
九十九が金を持って姿をくらませたのは、一男に金の正体を知って欲しかったから。電車の中、フラリと容を現した九十九は、手付かずのままの三億を、一男に返します。モロッコから10年を経た後、再び語り合う2人。変わらない九十九は、変わってしまった一男に答を探して欲しかったのでした。
99と1。落語も、金の正体の答も、その名の通りの2人。200億でも夢は売れないと考えた九十九。家族に値段を付けるなどあり得ないと思っている一男。九十九が持ってないもので一男にあるもの。足して100。
金とは、人のこころ以外なら、なんでも手に入れる事が出来るもの。金に使われる事とは、金では買えないこころ、幸せを手放す事。でも、金を変えるのは人。人が変われば金も変わる。
九十九は、夢になってはいけない、と言い残し、モロッコに飛びます。今度は一人で夢を見つけるために。
一男は、娘を幸せな気持ちにする為に金を使い、妻の笑顔を取り戻せそうです。彼は「金を使う側の人間」になれそうです。
まず、役者さんが全員良かった。池田エライザ含め。
黒木華の最後の笑顔が凄く好き。一瞬の笑顔で、一男への失望が氷解して行く未来を予感させてくれるから。たまーに、この人の芝居は凄いと思う時があります。
役者が良い映画に外れ無し、なことも無いが、この映画の良さは、多分、それが全てだと思う。