「見事なレスリング映画」ダンガル きっと、つよくなる kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
見事なレスリング映画
ギータ・マハヴィルが55kg級で優勝したコモンウェルスゲームズ(2010年インド大会)は、国際大会と言っても参加国が限られており、こと女子レスリングにおいては世界選手権には及ばないレベルの大会だ。
なにしろ、日本が参加していないのだから。
とは言え、ギータは2012年ロンドンオリンピックにインドの女性として初めて出場しているし、
世界選手権やアジア選手権の場で吉田沙保里や村田夏南子(現、プロ総合格闘家)と戦っている。
2013年以降、姉妹で階級を上げ、妹のバビータも吉田沙保里と戦い、ギータは伊調馨とも戦った。
そして、妹のバビータは2016年リオデジャネイロオリンピックに出場している。
インドでは、レジェンド的な存在なんだろう。
映画は、インド映画らしくユーモアを盛り込みながら、分かりやすくテンポよく進行し、最後はホロリとさせる手練れの演出で魅せる。
父親役で主演したアーミル・カーンの肉体改造が話題の本作。
確かに肉体変化もすごいが、レスリング的な動きも見事だった。
娘役の二人の女優も(幼少期の二人の子役も)、流石にカーンほど肉体は作れていなかったけれど、ブリッジなどちゃんとできていた。
そもそも、インドにはインド相撲(クシュティー又はコシティー)という伝統の格闘技があり、男子ではクシュティーを基礎とした多くの強いレスラーを輩出している国だ。
グレート・ガマという伝説のプロレスラー(500戦無敗?)がいたりする。
タイガー・ジェット・シン(カナダ人)が本当にインド出身かどうかは知らないが。
このクシュティーは砂の上で戦うのだが、
映画でも少女たちは砂の上でトレーニングしており、
髪の毛が泥だらけになると文句を言って丸刈りにされてしまう。
また、マットレスリング(フリースタイルレスリング)を父親がレクチャーする場面があり、
インドの田舎の子たちは国際ルールのレスリングを知らないんだと、驚いた。
ここで父親が言葉で説明するビッグポイントの技がクライマックスに繋がるあっぱれな構成。
レスリングは、ボクシングに比べると振り付けも演じることも難しい。
しかし、女優たちは確りとレスリングの演技ができていたと思う。
レスリングシーンにリアリティがないという意見も耳にしたが、ならば「ロッキー」のボクシングシーンも全くリアルじゃない。
映画的には、迫力を出すことと状況(戦況)を分かりやすく示すことが重要。
その意味で、本作のレスリングシーンも「ロッキー」のボクシングシーンに劣らない見事な見せ方だった。
防御か攻撃かの戦略や、クラッチの切り方の技術論などに信憑性はいらない。
最後にジャーマンスープレックスで大逆転なんて、胸踊る演出だ。
さて、メインテーマはインドの男尊女卑文化を背景に、常識を覆す父親の娘教育と、父娘の絆だ。
ただ、前半では女の子がレスリングをすることが驚きのように描かれているが、地元を出てジュニアなどの国内大会に出場する場面では、なんだインド国内に女子レスラーは結構いるんじゃないか、と思った。
父娘の住まいが田舎なんでしょうね。
ギータがナショナルチームに入ってからの後半は、スポーツ映画の色を濃くしていき、父娘の対立と絆が前半とは異なった形で表現されている。
ナショナルコーチのいらないプライドと嫉妬は、我が国にも共通するなぁ。