「劇的な演説はいいけれど…」ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
劇的な演説はいいけれど…
○作品全体
第二次世界大戦のキーマンの一人であるチャーチルを描くにあたって、ポイントを絞らねば第二次世界大戦中のイギリスの概要をなぞるだけになってしまう。
その中で、対ドイツ戦に舵を切るところに焦点を当てているのがまず面白い。
苦境からの勝利という意味ではロンドン空襲からドイツ降伏までのほうがわかりやすい気がするけれど、米ソとのやり取りを描いているうちにチャーチルの影の部分がどうしても出てきてしまいそうだ。対ドイツを決意するタイミングであれば、国の方向性を決める、という部分で首相という役割もメインに据えられるし、チャーチルの演説がその大一番にもなる。上手な構成だなと感じた。
ただ、チャーチルという登場人物の描き方には少し物足りなさも感じた。首相になるまでのチャーチルの失敗をチャーチル自身が引きずらない姿勢でいるが、それによってチャーチルの抱えるマイナスな感情がフィルム上にでてきていないような気もする。
協力者が得られず孤立するシーンも、国王や国民が「悪の独裁者を許さない、正義イギリス」の精神によって一瞬で覆る。それはそれで劇的なのだけど、チャーチルも国民自身も、自分たちの生活を守るという意識はないのだろうか、と感じた。危機的状況であり、冷静に判断するならば和平交渉が必要だとする状況(が多数の意見のように映している)であれば、それを選ばなかった理由を精神論以外のものでも示す必要があったんじゃないかと感じた。もっと言ってしまうと、劇的な演説による解決はヒトラーっぽくないか?と思ってしまった。
史実はどうであれ、和平交渉の利点を閣議であれだけ示されたにも関わらず、独裁者を許さないという一点だけで全面戦争へ仕向けたチャーチルの演説はヒトラーの演説とどう違うのだろうか(作中で同じようなことを登場人物も言っていたが…)。差別化するためにも、もう少し「劇的でないなにか」が欲しかった。
ただ、これは敗戦国・日本に住む日本人だから感じた感想かもしれない、とも思う。実際に進んだ進路がもし勝利へ向かったのであれば、こうした精神的な部分が決め手とする歴史物語をシンプルに楽しめたのかもしれない…と思ったりもした。
○カメラワークとか
・真俯瞰が多い。空爆の落下地点へのTU、群衆のなかにいる登場人物という強調、街と人。演出意図が違うのが面白い。
・影、というか画面に真っ黒な箇所が多かった。エレベーターに乗っている時のチャーチルや、地下施設でのシーン。孤立、孤独の印象。