「後にも先にも唯一無二の作品」君の名前で僕を呼んで ジリオロッソさんの映画レビュー(感想・評価)
後にも先にも唯一無二の作品
初めはCMで見て、アーミー・ハマーがカッコいいから観てみようかな・・・位の気持ちでBunkamuraへ向かった記憶がある。ところが観終わって心を掴んだのはラストシーンでの、ティモシー・シャラメの美しさと涙だった。
この作品はフランスやイタリアの映画や美術館好きにはたまらない。まずオープニングの映像、これから始まる愛の高まりを感じさせるような音楽が、ジャン・コクトーの「美女と野獣」を思わせるようでワクワクしてしまう。
舞台は北イタリアの夏、瀟洒な邸宅。そこを夏の住居とするアカデミックな家族たち。
壁のタペストリーや季節の果物が重たげに実る庭に至るまで、全てが桃源郷のようで、アメリカから来て暫く滞在するアーミー・ハマーにとってもそれは別世界を経験する入り口となる。
初めは博識で回転の早い、いけすかない奴だったアーミーに、ティモシーの方はいつしか心惹かれてしまう。そして恋心が募ってついには深い関係になっていく。
途中、ピアノの音色に恋心をのせるシーンやガールフレンドとのやり取りも面白いけど(というか、原作では更に冷たい扱いをされる)何といってもガルダ湖から引き揚げられた彫像を見るためにシルミオーネへ行くところが最高に好きだ。ここは原作には無いシーンだけれど、素晴らしい(自分も聖地巡礼をすべく、ミラノから列車とタクシー乗り継いで行ったほど・・・)。
2人の関係を知ってか知らずか両親は応援していて、アーミーがアメリカに戻る前に小旅行にベルガモに行かせるのだけど、小さなバスで揺られる辺りにスフィアン・スティーブンスの歌が流れて、見るたびにここでもグッと来てしまう。
列車で見送るシーン。まるで新婚旅行のような旅の終わりは2人の永遠の別れへと繋がる・・・
永遠の別れ、なんて原作ではその後にも再会する事になるし、実際監督も続編を撮る気満々だったけど、アーミー・ハマーが私生活乱れまくりで計画は頓挫している様子。
ただ、続編は作らない方が良いと思う。
ラストでティモシーが暖炉の炎を見つめながら、楽しかったのか苦しかったのかわからないほど激しかった夏の思い出を想い起こし涙する・・・あのエンドロールだけでもう十分満点の作品。
続きは必要ないでしょう。