「小さな一歩が、大きな飛躍へ」ファースト・マン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
小さな一歩が、大きな飛躍へ
監督デビューの『セッション』からオスカー獲得の『ラ・ラ・ランド』まで、一貫して音楽関連の作品を手掛けていたディミアン・チャゼルが意外過ぎる方向転換。
『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリングと再びタッグを組み挑んだのは、人類史上初めて月面に降り立ったニール・アームストロング船長の伝記。
全米では絶賛されながらも興行的には不発、日本でも週末興行ランキング初登場10位と偉業の映画化にしては余りにも寂しいが、『ライトスタッフ』『アポロ13』『ドリーム』など実録宇宙物、そもそも宇宙好きの自分にとっては興味尽きない。
実は、2月非常に楽しみにしていた一本。
いきなり一番の見せ場を語ってしまうが、月面着陸シーンはワクワク興奮。
遂に月面に降り立ち、最初の一歩を踏み締めるシーンは感無量。勿論、あの誰もが知っている名言も。
本当に宇宙には、ワクワク興奮と感動と夢とロマンがある。
専門用語飛び交い、小難しいという意見があるが、だってそれは当然。
月面着陸という偉業にはハイレベルの頭脳と技術の粋が集められたのだから、聞き慣れなくて知らなくて分からなくて当たり前。(寧ろ、知ってたらNASAで働いて下さい…)
それを映画として見れるようまとめただけでも拍手!
淡々とし過ぎているという意見が大多数。
もし、アームストロング船長が風変わりで豪快な性格だったらこの作風は間違い。
でも、アームストロング船長は寡黙で真面目な性格だ。だから、この作風は合っている。
その性格だけなら、偉業を成し遂げた偉人とは思えない。
何処にでも居る平凡な男。
良きファミリー・マン。
幼い愛娘を亡くした父親…。
そんな男が偉業を成し遂げる。
まるで、普通に会社に行き、帰ってくるかのように。
これは、一人の男が自分の仕事(任務)をやり遂げ、家族の元に帰ってくるまでの物語でもある。
『ドライヴ』や『ブレードランナー2049』など、ライアン・ゴズリングにはこういう寡黙だが、芯や内は熱い男を演じさせたらピカイチ。
偉業達成には支えた人物あってこそ。妻役で注目の若手、クレア・フォイも好演。
特筆すべきはやはり、その映像技術。
主人公目線、船内の閉塞感、圧倒的神秘的な宇宙空間や月面世界…。
臨場感たっぷりで、これ、3Dや4DXで観たら格別だろう。(嗚呼、それらで観たかった…)
『ゼロ・グラビティ』のようにVFXがメインの作品ではないが、サポート的に効果を上げている。
まだ30代の若きオスカー監督の新たな才と挑戦は留まる事を知らない。
何度も何度も偉業と言ってるが、本当にスゲー偉業だと思う。
今より遥かに技術もコンピュータも発展していなかった時代(奇しくもちょうど50年前!)、宇宙にまで打ち上がるロケットを飛ばすだけでも充分スゲーのに、さらにその先、人類を月に立たせるとは…!
ソ連との宇宙開発に勝ったり負けたり競争しながら、ドッキング成功など、着実に目的に近付く。
と同時に、成功と同じくらい、失敗、事故、犠牲も…。
宇宙でのトラブルは即ち、“死”を意味する。
実際、テスト段階で夫を亡くした家族も…。
家族の心配・心労は我々の想像を絶する。
また、世の非難。
人命を失い、大損失の失敗を繰り返し、こんな事に国民の税金を使うなら、他に先に現実的にやるべき事があるではないか。
それはまるで、今の日本と同じ。
復興はまだ終わっていない。それをないがしろにし、来るオリンピックに大金を使い、浮かれている。
本当に今、やるべき事なのか…?
オリンピックはアレだとしても、この未知の世界への挑戦は、人類の可能性や未来への扉を開く…いや、開いた。
クライマックスのケネディ大統領の言葉が響く。
簡単だからではなく、困難だから挑戦するのだ。
人類の飽くなき挑戦は、無限の宇宙のように拡がる。
小さな一歩が、大きな飛躍へと。