劇場公開日 2019年4月12日

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荒野にて : 映画評論・批評

2019年4月2日更新

2019年4月12日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにてロードショー

荒野のなかで強烈な魅力を放つ、新星チャーリー・プラマーが衝撃的!

アメリカ映画には、雄大な自然に調和する瑞々しさと精悍さ、抱きしめたくなるような繊細さ、社会に対する無垢な反骨心を兼ね備えた少年のキャラクターが時々出現する。その衝撃を、「スタンド・バイ・ミー」のリヴァー・フェニックスや、「ギルバート・グレイプ」の頃のレオナルド・ディカプリオに喩えるのは、いい加減にやめなければと自制している。しかし、アンドリュー・ヘイ監督(「さざなみ」)の新作「荒野にて」で15歳の少年チャーリーを演じたチャーリー・プラマーには、どうしてもその喩えを持ち出したくなってしまった。

本作は、孤独な少年が馬を連れて荒野をさまよう映画として宣伝されているが、出発するのはちょうど折り返し地点に当たる、1時間が経った頃。それまでの1時間で彼の日常が描かれ、父子家庭で、貧しく、学校に通っておらず、友人が1人もいないという彼の身の上が浮かび上がる。暇を持て余したチャーリーは、近所の競馬場の厩舎で、小遣い欲しさに競走馬リーン・オン・ピートの世話を手伝うことに。ピートに愛情を注ぐチャーリーの表情から、彼の孤独と優しさがにじみ出る。

そんなチャーリーを気にかけつつも、決して甘やかさない大人として登場するのは、スティーブ・ブシェーミが演じる厩舎オーナーのデルと、クロエ・セヴィニーが扮する騎手のボニー。アメリカのインディペンデント映画を支えてきた彼らのキャスティングからも、ヘイ監督の、映画を通してこの社会を誠実に描こうとする意志が伝わってくる。

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父の突然の死で天涯孤独となったチャーリーが、殺処分の決まったピートを盗み出し、疎遠になってしまっているマージー伯母さんが住んでいたワイオミングを目指して荒野へと足を踏み出すときには、すっかり彼を見守る守護天使のような気持ちになっていた。馬の名前にあるリーン・オンとは「寄りかかる」「もたれる」「頼る」という意味。唯一の心の拠り所であるピートに、荒野をさまよいながら幼い頃の楽しい思い出話や、複雑な胸の内を語り続けるチャーリーの孤独に胸がかきむしられる。あまりにも計画性のない冒険の舞台が美しくも過酷な荒野から街へと変わると、さらに厳しい現実が彼に襲いかかる。

人間社会という荒野のなかで、激しい風雨に花びらを吹き飛ばされ、何度も折れそうになりながらも、なんとか持ちこたえる一輪の花。そんなチャーリーを確かな技術で演じたプラマーには、「ゲティ家の身代金」で演じた大富豪の孫の面影は見当たらない。本作でマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した新星の冒険をこれからも見守りたい。

須永貴子

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