「雪の中に埋もれさせてはならない」ウインド・リバー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
雪の中に埋もれさせてはならない
アメリカに蔓延る人種問題に黒人や移民などがあるが、こちらも根強く残っている。
ネイティブ・アメリカン。
彼らが暮らすワイオミング州にあるネイティブ・アメリカン保留地“ウインド・リバー”。
そんな場所がある事すら初めて知ったが、その環境に凍り付く。
雪深い極寒の地。
好きでこんな地に住んでいる訳ではないだろう。追いやられた。
政府や法律にほぼ放置されている、言わば無法地帯。
追いやられ、さらに見放された現状…。
そこで、事件は起きた。
雪原で、一人の少女の変死体が見つかる。
薄着に裸足、吐血、レイプされた跡も…。
FBIの新人女性捜査官が派遣され、地元警察と土地勘のあるハンターと共に捜査を始める…。
被害者少女はネイティブ・アメリカン。
そこに何らかの差別や偏見がある事は察し付く。
実際、犯人の動機は畜生レベル。
人種問題と共に、この地故の問題も浮かび上がる。
犯人に同情する気は一切無いが、こんな寒いだけで何も無い地で暮らす不平・不満。それらが不条理にもぶつけられた。
凄惨で極めて事件性が高いのに、政府が寄越したのは、たった一人。しかも、ペーペー。
そもそもの現状が問題なのだ。
ハンターのコリーが捜査に協力するのは、ある理由が。
被害者少女は娘の友人。
その娘は数年前に死んでいる。同じように変死体となって発見された。
コリーはネイティブ・アメリカンの女性と結婚し、その間に出来た娘。
ある日、両親不在の時、娘は友人や友人じゃない連中とドンチャン騒ぎし、その挙げ句…。
事件の詳細は今も分からない。
しかし、この地の問題が絡む何か不条理で悲運な事があったのは間違いない。
各々の怒り、悲しみ、苦しみは、雪の中に埋もれたまま…。
ヒーローコスチュームを脱ぎ捨て、ジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンがシリアスな演技を見せる。
『ボーダーライン』『最後の追跡』の脚本家、テイラー・シェリダンの監督デビュー作。
全体的に地味ではあるが、話の面白さや見応えは充分。思ってた以上に見易くもあり、飽きさせない。
『ボーダーライン』ではアメリカ~メキシコの国境地帯、『最後の追跡』ではアメリカ西部の荒野、本作ではネイティブ・アメリカン保留地。
さながら、アメリカ辺境地3部作。
エンタメ性ありつつ、アメリカの辺境地が抱える問題やアメリカ社会現状の闇をあぶり出す手腕は見事!
脚本家としても監督としても、また一人、期待の逸材が現れた。