劇場公開日 2018年7月27日

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「サスペンスというよりドキュメント」ウインド・リバー おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5サスペンスというよりドキュメント

2018年7月28日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

物語は序盤からある種の緊迫感を伴って進みますが、それは恐怖からくるものではありません。ネイティブアメリカンが受けた白人からの差別や迫害、それに対する彼らの怒り、悲しみ、憎しみ。両者の間には埋めることのできない溝があり、その確執が緊迫感となって伝わってくるように感じました。

それを説明的なナレーションやわざとらしいセリフではなく、やり場のない思いが端々に滲むような会話や自然な演技、さりげない演出で、空気として感じさせている点はすばらしいと思いました。ネイティブアメリカンに対する政府の施策を詳しくは知りませんが、少なくともネイティブアメリカンにとって受け入れがたい思いがあったことだけは、ひしひしと伝わってきます。

前半でそれが理解できると、本作で描かれている事件が、それまでとはまったく違う顔をのぞかせてきます。事件の真相よりも、事件を通してこの地で生きる人々自身を描いていることに気づかされます。何もない辺境の地がもたらす閉塞感、そこに生まれる争いや犯罪、それ故に求められる強さ…。この地で生きる過酷さとそれを放置するアメリカの闇を垣間見た気がします。

ラストの「あきらめずに戦う強い者が生き残る」という言葉が印象的でした。本作は事実をもとに作られたということですが、サスペンスやミステリーといった類のものではなく、むしろドキュメントではないかとさえ感じました。

おじゃる