博士と狂人

劇場公開日:2020年10月16日

博士と狂人

解説・あらすじ

初版の発行まで70年を費やし、世界最高峰と称される「オックスフォード英語大辞典」の誕生秘話を、メル・ギブソンとショーン・ペンの初共演で映画化。原作は、全米でベストセラーとなったノンフィクション「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」。貧しい家庭に生まれ、学士号を持たない異端の学者マレー。エリートでありながら、精神を病んだアメリカ人の元軍医で殺人犯のマイナー。2人の天才は、辞典作りという壮大なロマンを共有し、固い絆で結ばれていく。しかし、犯罪者が大英帝国の威信をかけた辞典作りに協力していることが明るみとなり、時の内務大臣ウィンストン・チャーチルや王室をも巻き込んだ事態へと発展してしまう。マレー博士役をギブソン、マイナー役をペンがそれぞれ演じるほか、ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のナタリー・ドーマー、「おみおくりの作法」のエディ・マーサンらが脇を固める。

2019年製作/124分/G/イギリス・アイルランド・フランス・アイスランド合作
原題または英題:The Professor and the Madman
配給:ポニーキャニオン
劇場公開日:2020年10月16日

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映画レビュー

2.5 どこかちぐはぐ。 まあ実話だからねえ。

2022年4月26日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

なんかスッキリしなかった。
まあ実話は都合よく綺麗に進まないよね。
狂人のあの部分からしばらく早送りした。だからちゃんとは観れていません。
すいません。。

でも多分ちゃんと観ても評価変わらないと思う。。

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momokichi

4.0 圧巻のショーン・ペン、贖罪と狂人

2020年10月23日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

 事実は小説より奇なり、そんなありきたりな言葉がこれほどしっくりくる物語はそうない。特異な人物像に説得力を持たせたショーン・ペンの演技に見入ってしまった。
 ベースとなる事実だけでもインパクトがある。オックスフォード英語辞典(OED)の編纂にあたり用例を公募していたこと。貧困で進学出来なかった身からOEDの編集主幹就任にまで至ったマレー博士や、精神病院の中から大量の的確な用例カードを送り続けたマイナーの学究の徒としての執念。彼らをはじめとした関係者の尽力をもってしても立案から完成まで約70年を要したOEDの情報量など。
 そして、辞典編纂の過程と並行して描かれるマイナーの心のドラマはまるで荒海のようだった。南北戦争従軍がきっかけで心を病み、アイルランド人に狙われる妄想から無関係な男性を殺してしまう。入院後のマレー博士との邂逅、未亡人とのやり取りを経ながら、常に狂気と贖罪意識を抱えて揺れ続ける。後半、この二つが重なって強烈に発露し、物語が大きく転回するのだが、マイナーの精神の振れ幅に置いてきぼりを食らわず、心の動きを感じ取りながら観ることが出来た。脚本のよさとショーン・ペンの力量だろう。
 贖罪から解放されることの難しさを考えさせられた。そして「博士」と「狂人」とは?
 辞典編纂への貢献を考えると、マレー博士から見ればマイナーこそ博士の称号を与えたい存在だっただろう。また、狂人という言葉は精神を病んだマイナーだけを指すのか?別の観点で狂人の呼称に値する人間が他にもいたように思えてならない。
 この作品のフライヤーに「博士」と「狂人」を表すアンビグラム(逆さから見ると違う文字に読めるグラフィック)が描かれているのを見て、余計その思いが強くなった。

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ニコ

4.0 言葉をもっと大切にしなければ、と諭される思い

2020年10月29日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

コンピュータもデータベースもない19世紀、膨大な用例を集めるのは途方もないマンパワーを要する難事業であったことは容易に想像がつく。メル・ギブソンが演じたマレー博士は単に語学の天才だっただけでなく、広くボランティアを募って用例収集に協力してもらうという、IT時代の分散コンピューティングを先取りしたような独創的な発想の持ち主でもあった。

殺人を犯した“狂人”マイナーを演じたショーン・ペンは、前半は演技過剰に感じたが、マイナーに夫を殺されたイライザ(ナタリー・ドーマーが憎しみから愛情へ揺らぐ心情を好演)と関わるあたりから持ち味を活かせた印象。彼女が子供たちをマイナーと面会させた時の、長女が取った行動には胸を締めつけられた。マイナーによる「言葉の翼があれば世界の果てまで行ける」は名言で、言葉の力と可能性を端的に示している。精神病院の警備員に扮するエディ・マーサンも人間味を感じさせる名脇役だった。

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高森郁哉

5.0 壮大な普遍性

2026年5月12日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

博士と狂人
2020年の作品。
原作は、全米ベストセラーとなったノンフィクション『博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話』。
この作品を見終えた後、心に残ったのは「辞書編纂の偉業」ではなかった。
むしろ、人が生きる中で必ず触れてしまう“もう一つの側面”についてだった。
本作は、英語という言語を体系化しようとした人々の物語である。
意味、語源、使用例、それらを記録し、整理し、後世へ残す。
言葉を固定化しようとする壮大な試み。
しかし同時に、この作品は、その「固定化」が人間には通用しないことを描いていた。
言葉は変わる。
時代によって意味を変え、人間の認識によって姿を変える。
現在の日本語で言えば「ヤバい」のように、本来の危険という意味を越えて、多様な感情を含む言葉へ変化していく。
つまり言葉とは、本来流動的なものなのだ。
そしてその流動性を、人間の心にも重ねている。
ウィリアムは、自らを「許されない罪人」と定義していた。
戦争下で見た焼き印刑。
脱走兵への残虐な制裁。
そして何もできなかった自分。
その罪悪感が幻覚を生み、やがて誤認射殺へと繋がった。
しかしこの作品は、単純に「狂人」を描こうとはしない。
本当に狂っていたのは誰なのか。
脱走した兵士か。
焼き印を押した上官か。
戦争そのものか。
その問いは現代にも続いている。
どの時代にも、その時代なりの“正しさ”があり、その正しさが人を壊すことがある。
固定化された法律。
固定化された治療。
固定化された正義。
それらは時に、人間の心を置き去りにする。
だからこそ印象的なのが、ウィリアムがイライザへ文字を教える場面だった。
「言葉は自由の象徴だ」
閉ざされていた彼女の世界が、その瞬間に開く。
知識を得ること。
言葉を知ること。
それは単なる教育ではない。
世界認識そのものの変化だった。
そしてイライザは変わっていく。
夫を殺した男を憎みながら、同時に愛してしまう。
この矛盾こそ、人間なのだろう。
愛は美しいだけではない。
罪悪感を伴うことがある。
許しとは、綺麗に整理される感情ではない。
辞書は言葉を定義できる。
しかし人間の感情は定義できない。
そのことに最も深く触れたのが、ジェームズだったように思う。
彼は人生をかけて辞書を編纂した。
世界中の言葉を集め、意味を整理し、人類の知識体系を築こうとした。
だが彼自身の人生は、整理できなかった。
冒頭、彼は家族とホッケーの試合を楽しんでいる。
そこには、人間の本来的な幸福があった。
家族と同じ時間を共有すること。
笑うこと。
見守ること。
しかし使命は、その時間を奪っていく。
重要なのは、ジェームズが家族を愛していなかったわけではないことだ。
むしろ深く愛していた。
だから苦しい。
仕事も本物だった。
家族への愛も本物だった。
どちらかが偽物なら、人は割り切れる。
しかし両方本物だから、人は裂ける。
そして後半、エイダがジェームズを理解したことで、その苦しみは決定的になる。
もし最後まで反対されていたなら、彼は「理解されなかった犠牲者」でいられたかもしれない。
しかし彼女は理解した。
だからこそジェームズは、自分が何を失っていたのかを真正面から見せられる。
ここに、この作品の残酷さがある。
辞書編纂は成功した。
社会的には偉業だった。
だが彼は、失われた時間を回収できない。
言葉は残せる。
歴史は記録できる。
意味も語源も保存できる。
しかし、家族と笑った午後の空気だけは、どこにも編纂できない。
そして人は、生きていく中で必ず“もう一つの側面”に触れてしまう。
仕事は誰かとの時間を奪うことがある。
愛は罪悪感を生むことがある。
正義は人を傷つけることがある。
だが、それでも、その選択が間違いだったと言い切れない。
なぜなら、その苦しみの果てにしか生まれなかったものも存在するからだ。
本作は、「正しい選択」を提示する映画ではない。
むしろ、人間は矛盾を抱えたまま生きるしかないという地点へ着地している。
そしてその矛盾を知った時、人は少しだけ他者を理解できるようになるのかもしれない。
言葉を集め尽くした果てに、
「人生には回収不能な時間がある」
ジェームズが最後に触れたのは、辞書では定義できない、その静かな痛みだったのだろう。

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