「素晴らしいシーン続出の傑作」寝ても覚めても しろくまさんの映画レビュー(感想・評価)
素晴らしいシーン続出の傑作
いい邦画を観ると、日本人に生まれてよかったな、と思う。
この映画、このセリフ、この演技を、母語で観られてよかったなあ、と。
初め、主人公の朝子(唐田えりか)の口数は少ないし、感情の起伏も見せない、淡々とした=退屈な映画だなあ、尺も長いし、どうしようかなあ、思っていた。
だが、ところどころで素晴らしいシーンが入ってくる。
序盤では、朝子とルームメイトが住む家を、朝子に想いを寄せる亮平(東出昌大)と彼の同僚の串橋(瀬戸康史)が訪ねるシーン。
ルームメイトは演劇をしていて、ビデオで自分の舞台を見せる。その演技を巡って、ルームメイトと串橋の間に諍いが起こる。
きっかけになったのは串橋なのだが、登場人物たちにも観ているほうにも理由は判らない。
映画はそこから、その謎を明らかにしつつ、険悪化した諍いを収めていく。
観ているほうも、持っている情報は登場人物たちと同じだ。戸惑い、緊張感、感情の流れ、主導権の推移などが見事に描かれ、その「場の変化」に連れて、こちらの気持ちも揺さぶられていく。
この辺りから、本作を観る姿勢は変わっていった。そう、この後、心を揺さぶるシーンがいくつも出てくるのだ。
皿洗いの会話、昔の友人のお母さん、公園で手を振るシーンなど、見所が多く、たっぷり楽しめる。
テーマは選択、だろう。
ラストシーンも主人公たちの選択の場面だ。
そして未来は、その視点によって変わる。
ラスト、同じものを見て、男女で感じ方が180度異なるセリフは雄弁だ。
水べり、車の助手席、キッチンなど、同じモチーフを繰り返し描き、登場人物たちの関係性の変化を際立たせる演出も巧み。
傑作。