「麦の呪い」寝ても覚めても dekamoさんの映画レビュー(感想・評価)
麦の呪い
序盤は朝子目線で話が進むようだが、この子の心情が終盤にかけてどんどん見えなくなってくる。東京に舞台が移ってからは亮平目線で見ていた。だから、最後の方は朝子が許せなかった。
麦(バク)にかけられた呪いがこの物語の推進力。
個人的に、中学の頃に同級生の女の子に呪われることがあった。その子と似た性質の人を好きになることは今でもある。なので、朝子の行動に共感する。けど、家を決めて引っ越す段取りでドタキャンは本当に許せない。面倒臭い手続きをどれだけ乗り越えたか冷静に考えろ、と。おめぇは仕事してないし。っとは、あんましつこく強く言うつもり無い…というのは亮平もそうだった。
写真展や東北への車内など、印象的に麦と亮平を比較する場面が良い。
時間経過と環境変化の描写として、大学時代の友人たちが、シンガポール人と結婚して整形してたり、大病を患い体の自由を失っていたりという展開が良かった。これによって、朝子の心境と環境の変化にリンクしていたし、より際立たせていた。
東北から帰って部屋で倒れ込んだ亮平に、朝子が靴下を脱がせて足裏をマッサージし出すという愛情表現が良かった。リアリティがあるし、この人に何かしてあげたいとか感謝とかの感情から来る行動に思えた。
東北の震災を踏まえているのも効果的で良かった。こういう展開は近年の作品で多すぎるが。
日本酒とコーヒーの対比もツボ。
夢を追いかける女と諦めた素人評論家の男の対比もツボ。
…こう見ると、対立構造を挙げるの面白い作品。
個人的な経験的な見方もして楽しんだし、一般的にも、細かい表現や物語の展開に深みを感じた。基本構造は世界共通だけど、ディテールが日本ならではの題材なのも良い。
寝ても覚めても、彼のことを想う。だけでなく、寝ても覚めても…いろんな現実があるよねって思うと、良いタイトルだ。