「何、クズ親父が最期はいい人でした感出してんだよふざけんな」blank13 nigeraさんの映画レビュー(感想・評価)
何、クズ親父が最期はいい人でした感出してんだよふざけんな
この評価は、俳優さんの素晴らしい演技に関してのみです。
正直、リリーフランキー扮するクズ親父に対して、家族みんなの対応が優しすぎて違和感を感じてしまいました。
終始毒父を持った家族側の描写、心理的葛藤が薄っぺらく感じてしまう原因はそこかと思います。
多分、子供が父親と同じ性別である男性だからこそ、このような不気味なほんわか展開に持って行けたのかと。
とくに葬儀の席で読み上げられるクズ親父の遺書はおぞましいの一言。
借金の苦労を妻子に全て押し付けて逃げ出した人間が、何を今更、父親ぶったり夫ぶったり、自分に酔った詩人チックな遺書を恥ずかしげもなく書き残せたのか?本当に優しい人間なら、あんな手紙を家族に書くなんて出来ないと思います。
葬儀に来た人々が口々に「助けてもらった」「自分も持っていないのに、お金を貸してくれた」「いい人だった」とクズ親父の生前エピソードを語ります。赤の他人に金を貸す前に、自分のせいで苦しんでいる妻子に現金書留でその金を送ってやる事は出来なかったのでしょうか。
赤の他人の金の無心には頭を下げても、自分の借金で苦しむ妻子の為に
はそれをしなかったという事が葬儀の場で明かされ、子供側の気持ちとしてはかなり心を深くえぐるトラウマ的エピソードだと思います。
後半はとにかく「このクズ親父、実はちょっといい人だったんだ」と思わせようとしている事がビシバシと伝わってきてしんどかったです。
クズなら潔く、最期までクズであって欲しかった。
中途半端に実はいい奴感を出されるのが一番の迷惑です。
きっちりと迷惑をかけた妻子に対して、最期こそ、「あーやっぱあいつ、クズだったな!」と綺麗に恨みを昇華させてやって欲しかった。
高橋一生は、自分が書いた作文が実は親父が後生大事に持っていたと聞かされてある一種の父親を許す材料を与えられ、それによって優しい挨拶を弔問客にする事が出来ました。というか父と彼はちょっとタイプが似ている感じがするので(自分のやりたかった仕事をしているわけではないところとか、野球好きなところとか、お前父親になって大丈夫?って感じの雰囲気の人間なのにちゃっかり子供できてるところとか)より許しやすかったのかなと。
ところが父とは正反対の生き方をして大手広告代理店に勤めるまでになった長男の斎藤工には、父を許したくなるようなエピソードが皆無でした。
これでまだ葬式には誰も来ませんでした、という流れであれば「父親と正反対の生き方をしてきて良かった」と自分自身を肯定できる場になったと思うのですが、弔問客が泣きながら父の事を偲ぶせいで「人の価値とは…?」と、変な迷いが生まれていそうで、彼の今後の精神状態が心配で仕方ないですし、どうか長男が幸せになる事を願ってやまないです。