劇場公開日 2018年2月3日

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blank13 : インタビュー

2018年2月22日更新
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高橋一生&齊藤工 表現者としての信頼関係語る「互いに言葉が要らない存在」

映画、ドラマと幅広い活躍で注目を集める表現者ふたりが、俳優と監督という立場で向かい合った映画「blank13」が2月24日全国公開を迎える。既に短編作を発表している齊藤工初の長編監督作で、放送作家・はしもとこうじの実体験を基に、13年間の父の不在を経験した家族を高橋一生主演で描く。撮影前から「互いに言葉が要らない存在」だったというふたり。今作がきっかけで築かれた互いへの敬意と信頼を率直に語ってくれた。(取材・文/編集部 撮影/間庭裕基)

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現金輸送車の警備員として働くコウジ。13年前に蒸発した父の消息が判明したものの、父の余命はわずか3カ月だった。多額の借金を残した父に母と兄は会おうとはしなかったが、コウジは幼い頃の優しかった父の記憶を思い出し、病院で再会を果たす。その後父は死去、葬儀で参列者が語る父の思い出話から、家族が知らなかった真実が明らかになっていく。リリー・フランキーが父、齊藤監督がコウジの兄を演じる。

「映画少年だった僕が、長編を作れることになったという時点で長年の願望がかなったという感じでした。僕が観客側に立って考え、(高橋)一生さんにお願いしたいという気持ちと、原作のはしもとさんの希望が合致して、出演をお願いしたんです。引き受けていただいて、夢のようなプロジェクトになっていきました」(齊藤)

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それまで仕事上でのふたりの接点はほとんどなかった。主演のオファーを受け脚本を読んだ感想を高橋はこう語る。「光栄でした。斎藤さんは監督ですし、俳優でもある。同業の方から声をかけていただけたのは、とてもうれしいことでした。いただいた脚本はそこにある空白みたいなものを、演じる側、見る側にゆだねてくださっていると感じました。この映画は、演者の間や、空気というものに感謝していくような作品。ある意味、あまり日本の映画ではあまりやらないようなことに挑まれるんだと最終稿から感じ取って。素敵だ、ぜひやらせていただきたいと思いました」

クランクイン前から、ふたりで物語の方向性についてディスカッションを重ねた。「この作品がどこを目指し、どういう描写を切り取るかという根幹の部分が、一生さんからいただいた言葉だったり、ヒントだったので、クランクイン前に、僕自身とこの作品が出会うべく人に出会えたという運命的なものを感じました。映画的な余白の意味や価値など、一生さんはおっしゃることが非常に的確なんです。それは、海外の映画祭に持っていって、こういう部分が人に届くんだということが再認識できました。露骨な何かを表現するのではなく、むしろ引き算をするところが一生さんそのものだと思いました」(齊藤)

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コウジと父の関係、そして13年間の空白を、高橋はそぎ落とした演技で饒舌に語ってみせる。「齊藤さんがどっしりといてくださったことで、安心してある種実験的なことができた。僕はここまで(表現を)排除したことってないんです。けれど、これはある意味本当のお芝居だと思っているし、それをどういう風に今の時点の僕が出すかということを撮影前から考えていました。実際それを皆さんの前で出して、そのことに対して工さんが、『うん、うん』とうなずいてくださるのがうれしくて。互いに言葉が要らない存在で、数少ない貴重な方だと感じました」(高橋)

若手時代から着実にキャリアを積み上げ、ともに30代で一躍時の人となった。現在の状況をどのように捉えているのだろうか。「制限されることは格段に増えましたが、逆に出来ることも格段に増えているんです。何を窮屈かと考えるか、僕は意外とそこは冷静で、制限してしまったことはあるけれど、やり残したことはないです。制限されていることによって、新しい可能性が見えてくるという希望しかない。何も変わらずにやっていくことにプラスして、皆さんがいろんな想像力を働かせて、高橋一生にこれをやらせてみようという稼動域が増えていることがとても幸せだと思っています。そういうことを享受できる間は享受し、今までどおりやっていくことなんだと思います」(高橋)

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「自分では下積みだとは思ってはいないのですが、こうして映画を作らせていただけることは、いろんな時間を経験して、そこでの出会いの上にあるものだと思うんです。ですから、今、恵まれた状況にはあるなと思っています。もちろん、こういう時代なので、不自由を感じることは多々ありますけれど。例えば、ぼくはATGの頃の映画がとても好きで。映画業界が衰退していくという厳しい状況の中で、俳優と監督の飲みの席で企画が生まれる。そして、それを形にしてしまう不思議なエネルギーが宿って、逆に黄金期だったのではと感じました。だから、僕は今のコンプライアンス過多な状況を逆に武器に出来ないかと考えています。パク・チャヌク監督の『お嬢さん』では日本の春画が使われていましたけど、きっと日本で作ったらモザイクだらけになって、パク監督の意図とは違う滑稽さ、面白さが生まれるかもしれない。それがこの時代の特性かなと思ったんです。だめなラインがあいまいで、保守的で日本的だなということに気付くこともあるので、今の時代と自分の状況を面白がりながら楽しんでいます」(齊藤)

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最後に、お互いの存在を一言で表現してもらった。「片想いの人(笑)。齊藤さんが距離感を大事にしてくださっているので、その距離感のままドキドキ感を味わっていられる感じが幸せです。ガッと近づいても面白いかもしれないですけれど、今の距離感を楽しんでいます」(高橋)、「もっと適切な表現はあると思うけど、尊い人。映画製作という孤独と絶望にずっと寄り添ってくれていたのは、一生さんの存在。もちろん製作陣と、いろんな才能が集まって、支えてくれて仕上がった作品ですが、始まりから出口まで常に見守ってお守りのようにいてくださったのは一生さんなんです。友情関係があった上で、監督と主演という間柄になったのではなく、この作品から出会えたというのが、意味深い、尊い存在なんです」(齊藤)

ツーショットで表紙を飾った女性誌が完売したことでも話題を集める当世屈指の“モテ男”でもあるふたりは、劇中で兄弟役で共演している。齊藤が仕掛ける映画的表現の巧みさと、ミニマルな表現で絶大な存在感を見せる高橋の至妙の演技を是非スクリーンで体感してほしい。

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