「最上毅。殺人と死体遺棄。しかしそもそも…」検察側の罪人 akkie246さんの映画レビュー(感想・評価)
最上毅。殺人と死体遺棄。しかしそもそも…
反ユートピア映画。救いがない。正義はない。23年前だかに親しくしていた中学生の少女が絞殺された。まず、この事件が発端としてある。犯人は未成年だった松倉某。事件は松倉が少年院に送られ解決した。しかし、当時松倉は本当のことを語っていなかった。この事件は痛ましすぎる。この事件について語る部分が異常性を帯びているのは、役者の演技のせいである。もちろんここを核心に持ってきた演出側の意図もあるだろうけれど、物語は別の方向にぶれてゆく。
メインの物語は、その事件から数十年後。すでに40代後半の最上の同級生たちは、弁護士で活躍しているか、もしくは代議士になり、最上自身も東京地検の検事になっている。彼らは、一種のセレブとして描かれる。最上の家族や、代議士となった丹野の家族がエキセントリック。突然に生じる丹野の自死の理由が色々はしょり過ぎていて不明だった。
松重さんが演じる諏訪部という裏稼業のブローカーが、最上の祖父たちが関わった70数年前のインパール作戦でうすく繋がっているような描写が何回かあった。それも殆ど説明がされていない。原作読まないと多分わからないだろう。
と、書いたが、原作から追加された部分だそうである。脚本は原作に忠実ではないらしい。あるこの映画の紹介記事を読んで納得したが、「インパール作戦」についての部分こそ、監督がもっともやりたかったことらしい。
戦中のインパール作戦もしく白骨街道についての回想というか夢の中の映像がある。その戦争中の出来事もしくはインパール作戦とこの最上毅がどう関わっているのか最大の謎となって残る。ラストは祖父が小説を執筆した別荘なのだ。
まあ、そのとある紹介記事によれば、亡き祖父はインパール作戦を主題にした小説を書いた小説家らしい。
後半、最上の行動が検事にあるまじき行動の連続である。
劇中、木村演ずる最上は、諏訪部から拳銃を入手して殺人を犯す。殺されても仕方の無いような殺人犯だが、現行犯でもなく、私的に検事が直接手を下すのは、無節操極まりない。
そして、さらに数十年前のすでに裁きが終わっている事件の犯人を、でっち上げの凶器とストーリーで逮捕する。ただ、さすがにこれは、部下の橘と沖野が検察を辞めて弁護側に回り、被告人はこの事件で無罪を勝ち取る。観客はフラストレーションの極致に陥る。山崎努はベロを出す。
しかし直後、ここでまた謎のブローカー諏訪部が裏で活躍する。あっけない幕引き。
ただ、私は、この最低な映画を高評価する気持ちもある。映画としても脚本としてもデタラメだが、それなりに面白かったし、いろいろ考えさせられた。
松倉を捕まえ、裁くために、全てを捨てるつもりで殺人を犯し、新たな証拠をでっち上げるこの最上という男の執念。そもそも最上は松倉に罪を償わせるために検事になったのだから。
ただ、万人に勧められるかというと、そうではない。