「道徳教育的お仕事映画」検察側の罪人 エイブルさんの映画レビュー(感想・評価)
道徳教育的お仕事映画
☆良かったところ☆
原田演出。
いつもどおり、観客の集中力途切れさせない、一時たりともシーンの弛緩を許さぬかのようなキレるツッコミをビシッと撃っていく演出の手さばき、ゆえの細やかさには感じ入った。
お仕事映画として、面白かった。
未知の世界、検察やエリートらの日常が垣間見え、観客に未知を体験させる装置として、映画はやけに面白く有効だ。
本作は、話の本筋より、こういうお仕事映画的なところをもっと見せて欲しかった。
★悪かったところ★
演出はよく行き届いているものの、いかんせん、話がつまらない。本作の欠点はこれに尽きる。道徳の教科書みたいな正義や罪は、三十過ぎたおっさんには退屈であった。
まず、人物設定。
ベテラン風主人公キムタクの行動がとにかく不可解。いくら説明を挟んで動かそうとしても、それらはいくつかある分、切実さに欠け、こちらに迫って来ない。初恋の思い出がそんなに良かった?インテリが世界の動向を憂いた? 材料はあるが、観客にとって尊敬に値する検事でないまま終始しては、行動に意外性が出ず、観察して終わる。
話の転がり方。
原田監督作の比類ない豪腕力の秘訣は、情報量の多さと流す速度の妙が大きな要因と知っているが、過去作では情報はもっと的を絞り、粘着質に突き詰めていく、観客もろとも巻き込んでいくスタイルで、それがストーリーに知的うねりを作り急流押し寄せ怒濤のラストへ、といった話を転がす、と言うより、もはや自ら転がる、そういう強さがあった。
本作は情報多いものの、その情報はとっ散らかっていて、うねりは立たなかった。Aがあり、Bがあり、Cがあり、結果、大事件Dが起きる、として、しかし本作ではAとBとCとが関連なく独立してい、結果事件Dが発生しても、短絡的突発的に見え、こちらはぽかんと口を開けて、ストーリーを追っても肩透かし、不満が残される形。
ストーリーが平坦で安全過ぎ。
新人ニノの成長と葛藤を描きつつ、先輩キムタクがそれをフォローしつつ、実は裏で動いていた、しかもニノも裏で動いていた、その末、両者は正義と正義をぶつからせる知的な決闘へ……を、何となし期待していたが、新人ニノはとっくに立派だし道徳の教科書みたいな正義そのものだし、キムタクの怪しからぬ行動がバレても、ただ単に、そんなの許せないです、と、許せないよね、だよね、と、しぼんで終わった。せめてキムタクに何かしらの罰が与えられれば、まだ納得できたか。意外性のある正義、無くはない、が、もっと欲しかった。