劇場公開日 2018年5月12日

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「実録ヤクザと較べるなよ」孤狼の血 ロンロンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0実録ヤクザと較べるなよ

2018年7月26日
iPhoneアプリから投稿

最初の豚小屋のシーンにはビックリでした。役所広司の見事な悪徳刑事ぶりと松坂桃李の後半の豹変ぶりは見応えがあり、とても楽しめました。もちろん物足りない点もありますが現在の実録物としては充分です。本作を往年の実録ヤクザものと比較して不平不満を述べるのは酷です。今作は警察が主ですし。仁義なき戦いシリーズが公開されたのは私が高校生の頃で実際に映画館で鑑賞したのは大学時代、その1970年代の中頃と今とでは時代が違います。私が子供の頃、育った1960年代の別府の温泉街では銭湯に行くと普通に背中に絵を付けたおじさんが、いつも二人くらいはいたものです。それは菅原文太さんも演じた夜桜銀次が実際に生きていた街とその時代。ヤクザの抗争や揉め事は日常で私の父もヤクザを一人ムショ送りに。触れてはいけない緊張感や暗黙の了解が大人の世界にはあるのだと子供心でも身震いをしたものです。日本の高度成長期、ヤクザや暴力団が生活の身近にあった時代を知っていたり、作品の舞台となる土地の事情や言葉使いを知っている者からすれば納得出来ない部分があるのは当然です。しかし映画は事実も虚構も膨らませたり縮めたりと工夫をしてリアリティを追求し2時間程度にまとめる難しさからは逃れられません。作品の出来栄えを他の何かと比較したくなる気持ちが起きるのは基準とする比較対象への思い入れが強すぎるからでしょう。純粋に映画を楽しむことより評価することに価値を置き、事細かに見過ぎて知ったつもりになると近視眼で大切な事を見失うという視点の貧しさに溺れてしまいかねない。そんな無知な誤ちだけには是非、注意したいものです。

ロンロン