「これが映画じゃけぇ、面白ければえぇんじゃ!」孤狼の血 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
これが映画じゃけぇ、面白ければえぇんじゃ!
最近、白石和彌監督の作品が気になって仕方ない。
『凶悪』に衝撃を受けて以来、『日本で一番悪い奴ら』も『彼女がその名を知らない鳥たち』もその年最も観たい作品に挙げるくらい、自分でも不思議なくらい白石中毒。
今年は2月に『サニー/32』が公開され、秋にも『止められるか、俺たちを』が待機している白石イヤー。
中でも、真打ちであろう本作。
製作発表時から公開を今か今かと待ち焦がれていた。
原作は“警察小説×『仁義なき戦い』”と評される柚月裕子のベストセラー小説。
昭和63年の広島を舞台に、広島県警と広島やくざの“仁義なき戦い”。
冒頭のざらついた東映マークが作品世界にぴったり。
日本映画久々に気合いの入ったハードボイルド/アクション/バイオレンス映画であり、『仁義なき戦い』など往年の数々のやくざ映画の流れを汲む、東映本格やくざ映画!
劇中さながら終始汗が吹き出すほど、血湧き肉躍る。
こんな映画を待っていた!
まずはキャスト…と言うより、漢たちが皆、色気と魅力を放つ。
やくざ刑事・役所広司の存在感は言うまでもなく。それにしても、毎年毎年多彩な顔で魅せてくれる。この人に役幅の限界は無いのだろうか。
コンビを組むエリート若手刑事に松坂桃李。本作の真の主役は彼であると唸らせる熱演を見せてくれる。
江口洋介のやくざ役もなかなかハマっており、中村獅童、ピエール瀧、石橋蓮司らこの手のジャンルお馴染みの面々も安心安定のポジション。
漢たちの映画だが、真木よう子や初めて名前を聞く阿部純子ら女優陣も印象的。
本作の監督が白石和彌で本当に良かったと思う。実録系サスペンスを手掛けてきた監督と本作の必然的な巡り合わせ。
冒頭の豚小屋やあの痛々しいシーンなどのバイオレンスやグロ描写、エロも、全国公開規模でよく撮った!
アウトローの世界観、カメラワーク、快テンポなど、白石監督の作品の中でも最高級レベル。
往年の名作やくざ映画と比べると、ちと泥臭さが足りないかもしれない。
演出も脚本も粗い点もあるにはある。
が、その荒々しさが本作に合っている。
2大やくざの対立と警察内部の思惑が交錯し、特別捻った凝ったではないものの、旨味がどんどんヒートアップ的に増していく。
見終わった瞬間、じっくりとまた観たい!と思ったほどだ。
やくざと闘う為なら法に触れるのも厭わないベテラン刑事・大上。
そんな彼のやり方に疑問を感じる若い日岡。
てっきり若手がベテランの善悪では割り切れないやり方に染まっていく…というよくある展開と思っていたら、少々違った。
確かに大上はやくざ刑事/不良刑事だ。でも、悪徳刑事ではない。
彼は彼なりのやり方で闘っている。
彼が戦っているのは、やくざと、もう一つの大きな組織。
闘うには、非情な孤狼にならなければならない。
どんなに悪い噂を立てられようとも。
全ては、堅気の人々の為。
役所広司が演じた大上は『渇き。』で演じた悪徳刑事を彷彿させるが、似て非なるもの。
そこに痺れた。
大上に振り回され、全く認められない日岡。
しかし、ある時大上の真意を知る。
大上が遺した叱咤激励に、目頭熱くさせた。
序盤では青二才だった彼が漢になる、本作は彼の成長物語でもある。彼のラストシーンも最高にカッコ良かった。
そして受け継ぐ。
深作欣二らやくざ映画の名匠たちを継承した白石監督とダブった。
やくざと闘い、この世界で生き残るには生半可な気持ちではいられない。
それこそ、生死の綱渡り。
いとも簡単に堕ちる。
堕ちない為には歩き続けるしかない。
漢ならこのメッセージを胸にしかと受け止めろ!
かつて多く作られたやくざ映画が途絶えて久しい昨今。
漫画やTVドラマの映画化など甘っちょろい映画が氾濫する中、映画が映画である事、漢が漢である事を鮮烈に思い出させてくれる。
いつの時代もギラギラする孤狼の漢たちの仁義なき戦いは、永遠に不滅。
白石監督作をいつもその年のBEST候補の一つに挙げるのははっきり言って個人的な贔屓なのだが、それでも、
本年度BEST候補の一つ!
劇中の台詞に掛けて言うなら、
これが映画じゃけぇ、面白ければえぇんじゃ!