劇場公開日 2018年5月12日

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「ビックリ、ドッキリ、クリトリス」孤狼の血 masatoonさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ビックリ、ドッキリ、クリトリス

2018年5月12日
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ビックリ、ドッキリ、クリトリス

日本映画界の希望、白石和彌監督最新作

昨今の日本映画界で、全国公開規模で作るヤクザが絡む映画は企画が通りにくいと思う。漫画の実写化とアニメーション作品が邦画の主流であるし、そんな血を血で洗うような映画は日本であまり歓迎されていない。もし作れたとしても、出来がいいとは限らなく、売れる確証はない。しかし、2013年「凶悪」で彗星の如く現れた監督が白石和彌。彼の作る映画は、残酷だがブラックなユーモアに溢れたエネルギッシュな傑作ばかりだ。白石監督がいたからこそ、製作委員会は自信を持ってこの映画の企画を通したのだろう。彼は希望なのだ。

本題にうつって、この映画は広島の架空の街、進出してきたヤクザと地場のヤクザが争いを始め、進出してきたヤクザのフロント企業である金融会社の社員が行方不明になったことから、ヤクザに癒着するマル暴のベテラン「大上」と新人の「日岡」のコンビが捜査に乗り出す。その捜査とは、危険に塗れた無法の世界だった。というあらすじ。

こういった、悪質なベテランと青臭い新人がコンビで織りなす映画は珍しくない。デンゼル・ワシントンとイーサン・ホークの「トレーニングデイ」なんかはまさにこの映画との共通点は多くあり、デンゼルと役所広司の俳優としての雰囲気はかなり似ている。そして、FBIと麻薬カルテルの抗争を描いた「ボーダーライン」なんかも、ベニチオとエミリー・ブラントがコンビで似ている。どちらの映画も「狼を相手にするには狼になるしかない」というテーマ性があり、この「狐狼の血」と似ている。
ヤクザをグロテスクかつユーモアに描いた作品としてはアジア映画に似ていて、「アシュラ」、「新しき世界」などがある。(もともと、白石監督は「凶悪」の頃から悪い奴らの描き方がユーモアで、そこは一貫している)

こう書くと、まるで既視感しかないじゃないかと思われてしまうが、この映画はその感覚を裏切る。他の映画と似通った感じかと思わせておいたら、日本映画独自の人情に溢れた展開へと変貌していくのだ。それこそ、この映画の強みであり、深い感動を呼び起こす面白さなのだ。

他にも、銃の音のデカさ、容赦ない残酷描写と展開、胸を高揚させる太鼓のBGMが本当に素晴らしい。正直良いところはもっとあるし、キリがない。

そして、本作は原点に回帰することもかなりある。まず、東映のロゴ映像は昔のものを使っている。今の円形の後光のようなものがある映像は使っていない。ここに原点に回帰するという意思を感じさせる。
そして、二又一成のナレーションがまた懐かしさを感じさせるし、コントラストを効かせて、明るい色はよりくっきりと色合いがでるようになっているところが昔っぽい。もちろん、時代も舞台もキャラクターもストーリーも昔の任侠映画さながらで、とにかく「こういうのが見たかったんだろ」と言うかのように、見たかったものがこれでもかと出てくる。最高としか言いようがなかった。原作者の方が仁義なき戦いのファンとのことで、だから古臭さがあるのだ。

そして、役所広司扮する大上のキャラクターが凄く良い。この人が魅力的ではなかったら、もはやこの映画には価値が無いと言っても同然なくらいに重要なのだが、役所広司を起用したのは本当に英断だったと思う。「警察なら、何してもええんじゃ」と言うくらいのクソッタレな奴だが、だからこそ魅力的に描かれなければならない。印象に残る映画というのは、敵も主人公くらいに魅力的に映るものだと思う。
このキャラクターの素晴らしいポイントは、ただのクソッタレじゃなくて、時々名言めいた核心を突いてくるところだ。特に「綱渡り」のところは圧巻だった。この核心をつくようなセリフを、この役柄を維持したままでより説得力のあるように言えるのは、他でもなく役所広司しかいない。この役は彼にしかできなかったのだ。

この映画の最大のメッセージはベテラン刑事と新人刑事の関係性にある。この映画で刑事の「心」は「継承」されていく。
昨今の日本映画界、古き良き日本の映画が滅びつつある。庵野秀明監督と樋口真嗣監督が「シンゴジラ」で古き良き特撮の意志を受け継いでいった。そして、任侠映画は、この白石和彌監督が意志を受け継いでいった。
この「継承」こそが、変わりつつある今の日本映画界に必要なことなのだと必死に訴えているようだった。

他のキャストに関して、白石監督作常連のピエール瀧は流石の一言。出てきて素直に嬉しかった。松坂桃李の青臭さがまた凄くいい。真木よう子は龍が如く6でママの役やってたから違和感がなかったし、色気があってよかった。滝藤賢一、江口洋介、竹内豊、石橋蓮司、中村獅童と配役が素晴らしかった。

必見の一作

masatoon
masatoonさんのコメント
2018年5月13日

こんな映画が流行ったら終わりだ!?
誰も得しない!?
そんなこと言う奴はこの国から出て行け!これこそが日本の映画なんだよ!

masatoon