「モラルとアンモラルの上を綱渡りをする映画」孤狼の血 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
モラルとアンモラルの上を綱渡りをする映画
いつもだったら絶対観ない類のヤクザ世界の映画なんですが・・・
昭和も末期の63年。
広島県呉原市では広島の巨大暴力団組織五十子会系の加古村組と地元の暴力団組織・尾谷組の小競り合いが続いていた。
そんな中、加古村組のフロント企業のサラ金企業の金庫番が失踪したと、失踪した金庫番の妹から呉原東署に相談があった。
捜査に乗り出したのはベテラン・マル暴の大上(役所広司)。
彼には、新人刑事の日岡(松坂桃李)が部下として同道する・・・
といったところから始まる物語。
東映ヤクザ映画なので、ふたつの対立する暴力団の抗争ものかと思いきや、主役はマル暴の警察。
その上、映画がしばらく進むと、日岡は県警本部監察から送り込まれた内偵者だということが判明する。
内偵の内容は、尾谷組べったりの大上を賄賂なりなんなりの悪徳警官として処分するだけでなく、彼が14年前のふたつの暴力団抗争に乗じて、加古村組の若い衆を殺したのではないか、ということを立件することにある・・・と展開し、俄然、面白くなります。
香港映画『インファナル・アフェア』の変型のようにも思えるのだけれど、とにかく、二つの暴力団と警察組織の三すくみ状況にミステリー要素を盛り込んだところが興味深い。
過去の事件の真相がどうだったのか、内偵者・日岡が事実を掴むのか、さらに、そもそも火種を抱えたふたつの暴力団組織はどうなるのか・・・とスリリングな要素がてんこ盛り。
・・・と娯楽要素もたっぷりな上、ふたつの組織に挟まれて、どのように(正)義を通すのか、誰のための国家組織なのか、というあたりを巧みに盛り込んだ脚本も上手く、東映映画だからといってヤクザに寸分の思いやりをみせない白石監督の演出も素晴らしい。
「警察じゃけぇ、何をしてもええんじゃ」とはこの映画の惹句だけれど、「東映じゃけぇ、何をしてんもええんじゃ」と言わんばかりに、モラルとアンモラルの上を綱渡りをするこの映画、もしかしたらこののち「傑作」と呼ばれる映画になるかもしれません。