劇場公開日 2018年6月15日

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「しんどいね、生きてくのは」空飛ぶタイヤ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0しんどいね、生きてくのは

2018年6月17日
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鑑賞方法:映画館

 この作品は長瀬智也が主演のはずで、本人もそれなりの演技をしていたのだが、如何せん脇役陣の演技が凄すぎて主役がボケてしまった感がある。それはプロットにも由来するところがあって、主要な登場人物それぞれの人生が少しずつ描かれることで、それぞれの人物に一様に感情移入することになり、主役のシェアが下がってしまうのだ。しかしそれは強ち悪いことではなく、寧ろ群像劇のように物語の幅を広げている。
 個人と組織の相克というテーマはお馴染みではあるが極めて奥の深い問題で、映画、小説、演劇など様々なジャンルの数多くの作品で様々に描かれてきた。この作品では組織の論理が個人を蹂躙する大企業に対して、家族のような人の繋がりを是とする小企業の対比がベースとなっている。現実はもう少し複雑だが、敢えて簡略な構図を設定することで登場人物たちを典型化し、行動の動機を明快にしている。登場人物に感情移入しやすいからくりがそのあたりにあると思う。
 場面場面で異なる登場人物に感情移入しながら観るので、飽きることはない。また登場人物が典型だから混乱することもなく全体像を容易に把握しながら観ることができる。とても分かりやすい作品で、エンドロールで流れる桑田佳祐の歌の「しんどいね、生きてく(生存競争)のは」という歌詞がこの作品を象徴している。いろんなことはあるけど、共同体の中で組織や個人と関わりつつ、それらを受け入れて生きていくしかないという、諦観とも肯定ともつかない感想を得る。

耶馬英彦