劇場公開日 2018年6月15日

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空飛ぶタイヤ : インタビュー

2018年6月13日更新
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長瀬智也×ディーン・フジオカ「空飛ぶタイヤ」に込めた揺るがぬ信念

「下町ロケット」「半沢直樹」などで知られる直木賞作家・池井戸潤氏の“初の映画化”作品となった「空飛ぶタイヤ」。数々の著作に通底する「抑圧された人々の大逆転劇」は、まさに“痛快”の一言が相応しい。座長を務めた「TOKIO」の長瀬智也と、劇中で火花を散らしたディーン・フジオカは初共演ながらも深い信頼関係を築き上げ、同等の熱量を持った“魂”を作品に封じ込めてみせた。(取材・文/編集部)

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超高速!参勤交代」シリーズの本木克英監督がメガホンをとった本作は、ある日突然起きたトレーラーの脱輪事故を契機に物語が展開。トレーラーの所有主である赤松運送の社長・赤松徳郎(長瀬)、製造元である大手自動車会社・ホープ自動車のカスタマー戦略課課長・沢田悠太(ディーン)、ホープ銀行の本店営業本部・井崎一亮(高橋一生)が事故を追っていくさまを描き出す。大企業による“リコール隠し”という巨悪――おぞましい事実を目の当たりにした各キャラクターの胸に去来するのは「正義とはなにか、守るべきものはなにか」という究極の問いかけだ。それぞれの立場で起こした行動という“点”が、1つの“線”として結びつく時、反撃の狼煙が上がっていく。

「こういう社会派の作品を映画にしようと思った気持ちが素晴らしいと思います。それに、社会のダメな部分や人間のダメな部分も含めて、色々なことがリアルに、綺麗ごとじゃなく描かれているし、そこを妥協せずに見せきろうという作り手たちの熱い思いを僕自身感じています」と製作陣の信念に賛同する長瀬に対し「特定の社会の問題だけではなくて、人間の性と言うか、ユニバーサルに通じるテーマがすごく分かりやすく描かれている作品」と説明するディーン。愛する社員を含めた“家族”のために身をていする赤松、自らのポジションを最優先に考える沢田、まるで“合わせ鏡”のような人物に、長瀬とディーンは息吹を注いでみせた。

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長瀬「あまり役に癖をつけたくなかったですね。現実世界で生きている色々な人に当てはまってくれたらいいなと思っていました。赤松は何でもない人間だと思うんですよ。社長だとしても、会社を1歩出たら、普通の家族のお父さんですから。そういう目線で見てもらえたらいいなという気持ちでやっていたような気がします。だから、そんなに細かいことは考えていなかったし、周りのキャストの方々が赤松社長を作ってくれたようなところがありますね」

ディーン「企業や団体という大きな集団の中では、何百何千という人たちがそれぞれに役職を与えられ、責任感を持って働いていますが、中には流れに反する意見を持つ人、大きなトライをして失敗してしまう人もいる。でも、ニュースでは個人ではなく、大きな括りで同一に扱われて、企業や団体の問題として見出しになることが多いですよね。そのあたりの何とも言えない感じを、沢田課長に投影できたらいいなと思ったんです。だから恰好つけず、日本人の欲と言うか、本来あるべき、人としてのインテグリティみたいなものを追求しようとしている人物に映ればいいなと思っていました」

ディーンの魅力について問えば「止まんないですよ? 褒め殺しますよ?」と前のめりになる長瀬。「同年代」「音楽」という共通点に親しみを感じ「最初から溶け込みやすさはあった」と振り返り「ずっと海外で仕事されていて、感覚的に見ているものが面白いなと思ったんです」と告白する。「お芝居1つにしてみても“大きな観点”で見ているような気がしていました。自分の思い描いていたものを、一緒に芝居をしている時に理解してくれている。役や演技に反映したものを、きちんと“意味”として感じることができたんです」と話し、セリフの掛け合いにおける間の取り方は“打ち合わせなし”で臨めたことを明かした。

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「初めて会った時、カリフォルニアの空のように気持ちのいい人だなと思った」と述懐するディーンは、「10代の頃から一視聴者として長瀬さんの存在は知っていますし、結果を出し、挑戦し続けている方というイメージ。何事も継続するというのは難しいんですよ。こうやって隣で話をさせていただいてること自体『恰好いい先輩に少し近づけた』と“子ども心”を思い出すような感覚です」と胸中を吐露。長瀬にとっても今回の出会いは「なかなか見つかるものではない。いつかまた一緒に仕事をしたとしても、何も話さずに共演できるはず」と希有なものになったようだ。

赤松運送、ホープ自動車、ホープ銀行――一概に「味方と敵」という関係で言い表すことはできないだろう。主眼が置かれているのは、個人が持つ「仕事に対するポリシー」だ。自身に対するメリットに重きを置くのか、はたまた働き手としての矜持を貫くのか。各キャラクターの決断が、大団円へと導くカタルシスを生み出す。「僕はいつもメッセージが見る人にどのように伝わるのかを一番大事していて、それが『自分が表現した方がいいのか、否か』のジャッジのポイントにもなっている」という長瀬に「役者としてのポリシーは?」と尋ねると「根本的に『(自分は)役者だ』という考え方がないのかもしれません」と意外な答えが返ってきた。

長瀬「『僕の人生には、僕にしかできないことがある』というルールみたいなものがあるんです。役を演じる上でも、僕にしかできない形のものができるはずと考えています。自分が言いたいことがきちんと伝わってるかどうかが一番大切ですし、そこを表現するためなら、僕は手立てを選ばない。それが役者としてタブーだったとしても『俺は役者じゃねぇ!』と突き進みますね。その点を妥協してしまうと、これまで積み上げてきたものが崩れてしまう。役者の中に1人くらいこんな奴がいてもいいんじゃないかと思っています」

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言葉に力を込めて語り続ける長瀬の姿は、“信念の男”赤松徳郎そのものだ。一方、その熱弁に耳を傾けていたディーンは「音楽は、自分が不器用にコツコツとできることを直球でやり続ける感覚なんですが、役者はそれまでの経験や思いを全部導入して、作品の世界観、キャラクターを存在させるために全身全霊でお手伝いをしているという感覚なんです」と思いの丈を述べた。

ディーン「こういう役をやってみたいなという考えをあまり抱かないからこそ、オファーを受けた時にはドキドキワクワクするんです。『自分ではこういう役は考えたことはないな』『この役を演じている自分は、どんな日々を送るんだろう』と考えるんです。芝居をしている間は、人生のなかで“役として生きている時間”。不思議な仕事だと思いますし、好きだからこそ続けられる」

そして「お芝居も音楽も果てが見つからない。年を重ねれば重ねるほど難しいなと感じています」と打ち明ける長瀬。「不器用に1つの役しかできないけど、伝えたいことがきちんと伝わっている人はパワーがあると思っています。こういう仕事をやっていると、常にそうでありたいなと思うことがたくさんありますね」と何事にも真正面から立ち向かう決意をにじませていた。

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