アイリッシュマンのレビュー・感想・評価
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名優たちの滋味が引き立つドルビービジョン
配信をDolby Vision対応の有機EL55インチで鑑賞。これまでNetflixやAmazon PrimeでDolby Visionや4Kの映像を見てきたが、本作の滋味豊かな映像は格別だ。特にジョー・ペシの皺が深く刻まれた肌の質感がたまらない。有機ELが得意な黒の表現との相性が良いのだろう、渋さが一層引き立ち薫香のよう。
シチリア系の血を引くスコセッシがこだわり続けた“ファミリー”の物語。アイルランド系のシーラン役、ドイツ系のホッファ役に、デ・ニーロとアル・パチーノというイタリア系を起用した点も血の絆を感じさせる。シーランとアンナ・パキンが演じた娘との親子関係も悲痛で哀しい。出演を固辞し続けたペシをデ・ニーロが粘り強く説得したのは、スコセッシと組みこれほどの面子、これほどの規模で映画を撮るのは多分最後という思いがあったからではないか。集大成の風格が堪らない。
ロバート・デ・ニーロ(1943年生まれ) アル・パチーノ(1940...
大御所達が織り成す重厚感に胸アツ
Netflix配信作品というところで少し後回しにしてしまったが、マーティン・スコセッシ監督作品で、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの共演ということで遅ればせながらもいよいよ鑑賞。
これだけの大作ゆえ、ストーリー良し映像良し役者陣の演技良しで当然重厚感があり満足のいく内容だったのだが、それにしても上映時間210分は、かの名作「タイタニック」をもゆうに超える長編具合で少々疲れた。どれも重要なシーンにて、どこを簡略化すれば良いのか素人には想像の及ばないところではあるが、1本の映画を芸術性で測るならばやっぱり本作は長過ぎるかもしれない。
いずれにしても、言わずもがなだが「ヒート」での2人の熱い戦いを思い出し、25年の時の流れに感慨深いものを感じ胸が熱くなった。
今年最大の話題作!22年ぶりにデニーロとタッグを組んだスコセッシの...
途中ギブアップ寸前だったけど。
いぶし銀の演技が光る。、
派手なアクションは無いけどそれがいい
なぜデニーロは出番をゆずらなかったのか
デニーロ、パチーノ、スコセッシ。この三人が揃って仕事をしたという事実に胸をときめかせ、「面白くならないわけがない」と自分に言い聞かせ、ネットフリックスの限定上映という機会にも偶然恵まれて、映画館で鑑賞。
ずいぶん昔に、『ヒート』という映画でデニーロとパチーノは共演をしているが、二人が同じ画面に収まることはなく、会話シーンや撃ち合うシーンですら編集で処理してある始末。当時は「不仲説」がまことしやかにささやかれたものだ。ネットの書き込みでは、「演出」ということで落ち着いているが、釈然としない。
『ゴッドファーザー』では、この二人は親子の設定で、マーロン・ブランドからいちばん可愛がられ、甘やかされて愛国心にあふれまっすぐに育った三男坊をアル・パチーノが好演。初めはパチーノをキャスティングしたことに不満を抱えていた映画会社の重役が、有名なシーン(ダイナーで政敵を撃ち殺すシーン)を見て「あの新人はいいねぇ」と手のひらを返したように惚れ込んだ、なんてエピソードもあったそうだ。
大ヒットした映画の続編『ゴッドファーザー・パートⅡ』で、マーロン・ブランドの若かりし日々をデニーロが演じ、無名だった彼は一気にスターダムにのし上がる。パチーノは同じ映画に主演しているものの、デニーロの鮮烈な印象にかすんでしまっている。この二人が同じ画面に収まることはあり得ないので『ヒート』での共演は期待値マックスだった。そして、見たときの失望感も大きかった。「だって、あの二人が絡んでいないんだもの」…
無知を恥じるしかないが、『ボーダー』という映画でもふたりは共演しているそうな。映画の出来はあまりよろしくないようで。
結論から言うと、この映画で今回ばっちり共演している。ハグするシーンではパチーノが意外に小柄な人でデニーロと並ぶとまるで大人と子供だ。同じ画面に収まりたがらなかったのも何となく頷ける。特別なケミストリも感じない。
で、肝心の映画なんですが、まずネットフリックスの戦略に深い失望と疑問を感じたことが大きい。いったい誰がこの映画をタブレットやケータイの画面でちまちま再生して鑑賞するというのか。映画のスケール感と、ターゲットにする観客のマッチングがこれほどかけ離れた映画も珍しい。興行での成功より、明らかに「賞狙い」の話題先行型。長すぎるし、展開が重たすぎる。
デニーロは、集大成とばかりに、よぼよぼのじいちゃんから、若い時まで特殊メイクを駆使して演じているが、残念ながらデニーロ・アプローチを見られた満足感よりも不満のほうが大きい。70歳の老人が90歳の晩年を演じたところで観客は驚かないし、転んでも自力で起き上がれない老人は演技ではなくただのアクシデントにしか見えない。若い時の姿は見た目40歳ぐらいに若作りしているがこれも姿勢が猫背だったりして無理がある。その点、『アントマン』で若い時の自分を違和感なく演じたマイケル・ダグラスはすごいな、と改めて思う。
なぜ、デニーロ自身が勝ち取ったように、若手にチャンスを与えなかったのか。若きヴィートー・コルレオーネを演じた天才は、自らの若い日々を自分で演じてしまった。ものすごく残念だ。プロデューサーも兼ねているデニーロの、エゴだろう。
『マイ・インターン』で、清々しい好人物を存在感たっぷりに演じ、まだまだ健在を印象付けたが、この先はフェードアウトしていくんじゃないだろうか。役者として、枯れていく様を見ていくのはつらいものがある。映画館を出るときに、特大のポップコーンを持て余し、ごみ箱に捨てる気分。
そんな、残念さが消えない。
ネットフリックスでは、同じく限定公開だった『ローマ』が非常に満足度の高い作品だっただけに、その落差にも驚いた。そして、どちらの映画も映画館で見るべき作品だという印象は強い。
2019.12.10
労働組合とマフィアは仲良しだった!
4時間近い長さを実感しない濃密な作品。
やたらと長い上演時間に驚きましたが、内容は「チームスター」という愛称で知られる全米トラック運転組合を実名で描いた、「カテゴリーとしてはマフィア物」の映画です。
全米のほとんどすべての貨物はトラック運転手が配達しているわけで、その100万人のドライバーが団結すれば強力な交渉力を得られるぞ、という、もちろんそれ自体は正しい認識ですが、そうやって暴力的に得た交渉力と、莫大な年金資産とを、ラスベガスのカジノ建設をはじめとする裏社会にどんどん融資してきた組合ボスとその凋落。
……ってな背景知識を得られたのが私としては最大のメリットでした。
映画エネミー・オブ・アメリカで何の説明もなく「労組に対する暴力・恐喝行為」が冒頭近くで出てくるのですが、ああ、こういうことだったんだなとスッと腑に落ちた次第です。
アメリカ人には常識中の常識なのでしょうけど、私はまったく知らなかった世界が、世の中にはまたまだたくさんあることを知りました。
日本国内でも、労組なんだか暴力団なんだか区別のつかない組織の悪行が、たまに報道されますけど、全部実名を使い、そういうものの危険性をエンタメとして真正面から告発するような作品が、はたしてどれぐらいあることやらと考えさせられた次第です。
ぐいぐい見せる絵巻
国内の映画レビューサイトは5点満点をつかっている。
個人的に気になるのだが、ほとんどの映画が3.5の近似値になる傾向がある──ような気がしている。
一般庶民なので、世間が映画に付ける点数は参考にするが、じぶんの採点には自任はない。
よくIMDBの点を見る。あっちは10点満点なので、わたしはこっちで付けられた点を2倍してみたり、あっちに付いている点を2分の1してみたりする。日本の点が甘いこともあれば、辛いこともあるが、たいていは甘い。
わたし自身、べらぼうに羽振りのいい採点者である。
映画レビューサイトにおいてもっとも信頼のおける勘所は採点者の数だと思う。IMDBはその分母が大きいゆえ、ほぼ世評であると判断できる。
映画を観る前や観た後で、いちばん知りたいのは、偏向のない世評である。
ただしIMDBとはいえアメリカ母体なので、採点者のすくない映画もけっこうある。だがメジャー映画はかなり参考になる。7が佳作のK点だ。
ところが国内レビューサイトでは、ほとんどが3.5の近似値になっているゆえ、有り体に言うなら、良いのか悪いのか、よく解らない。IMDBにおける7のようなK点が、読めないし、個体差もけっこう薄い──と思う。
とても小市民な観点だが、わたしは小市民なので、気になる。
アイリッシュマンを観るまえ、IMDBを見たら、8.6を付けていて──瞠目した。ぶっとびの高得点である。ジョーカーやボヘミアンの初期値を超え、既に採点分母も大きいゆえ、存在のない子供たちも超えている。
期待が膨らんだ。
映画の点数には、そういう解りやすさがほしい──という話。
フランクの長い来歴を扱っているが、さいきんの映画には老若をも往来できるテクニックがあり、現況実年齢のデニーロやペシがどんななのか、皆目わからない。50年もの月日が流れているが、その経年はほとんどシームレス、壮年から老境まで違和がなかった。
フランクとかれがたずさわった権力闘争の興亡を描いている。フランクは一個大隊ほどもの人を殺しているが、迷いはない。登場人物達は皆、いついつ撃たれて死ぬと添え書きされる。愁嘆がばっさりとはしょられ、時代が変遷する。実話らしいが特に知識はない。
いったい彼を駆り立てたものは何だろう──と考える。家族を養うため。生活を豊かにするため。ラッセルとの兄弟の契りのため。恐怖心ゆえ。じぶんを守るため。いろいろあるだろうが、根幹には自尊心──出自に対する矜持があると思う。
建国を支えたアイルランド人、アメリカの有名人には驚くほどアイルランド移民/その子孫が多い。国を捨ててアメリカに渡ってきた移民にとって、簡単に言えば──なめられてたまるかという気概があったのは──想像に難くない。そんなタイトルどおりのThe Irishmanを、イタリア移民のスコセッシが、半世紀も一緒にやってきた強面の仲間たちと楽しげに活写している。
島国のわたしがその真髄を理解したとは言えないかもしれない──とは思う。
ただし落とし所は老境にある。手下たちをくるくると円転させていたラッセルが半身不随で無力な老人になって刑務所にいて、やがて死ぬ。フランクは両杖で娘から見放されている。闘争に暮れたとはいえ、かれには、なにひとつ残っていない。そしてほかに誰も生きていない。
Everybody's dead,Mr. Sheeran. It's Over. They're All gone.
悪党たちの末路にマフィア社会と隣合だったスコセッシ自身のオリジンをかいま見ることが出来る。
豪華
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