ミックス。 : インタビュー
新垣結衣&瑛太「ミックス。」で築き上げた“最高のパートナー”という関係性
卓球の男女混合(ミックス)ダブルスを題材にし、欠点だらけの不器用な人々が小さな奇跡を生み出していく映画「ミックス。」。ダブル主演を務めた新垣結衣と瑛太は意外にも本作で初共演となったが、互いへの信頼がにじむ芝居によって、見る者を大いに笑わせ、そしてホロリと泣かせる。阿吽の呼吸で“芝居のラリー”を披露する2人は、どのようにして“最高のパートナー”となったのか。(取材・文/編集部)
ドラマ「リーガルハイ」「デート~恋とはどんなものかしら~」などで知られる脚本家・古沢良太と、映画「エイプリルフールズ」の石川淳一監督が再タッグを組んだロマンティックコメディ。恋と仕事に敗れた元天才卓球少女のOL・富田多満子(新垣)が、夢と家族を失い挫折した元プロボクサー・萩原久(瑛太)とミックスペアを組み、全日本卓球選手権大会に出場する姿を描く。
新垣と瑛太が初めて顔を合わせたのは、これまで未経験だった卓球の練習初日。卓球台を前にして新垣と横並びになった瑛太は「すごく楽しい!」「この映画はいける気がする!」と叫び出してしまうほど、手応えを感じていたようだ。「撮影に入ってからも『この映画を楽しみたいんだ』と映画にかける思いをお話しいただきました。お芝居に対してとても情熱がある方」という新垣の言葉を受けた瑛太は「ガッキーが出演していた作品を今までたくさん見ていたので、いつか共演したいなと思っていました」と二つ返事でオファーを快諾したことを明かすと、作品を成功へと導くためには“信頼関係”が重要なキーとなることを自覚していた。
瑛太「“ミックス”という競技は互いに信頼し合っていないといけないスポーツですし、演者としての距離感は絶対にバレてしまう。嘘をつきたくなかったんです。最終局面までに2人の距離感を良い関係に見せたかった。ガッキーのことを腹の底から信頼して演じたいと思っていたので、チャンスがあれば話しかけたり、質問攻めにしたりしていましたね。(新垣は)基本的にナチュラルで自然体な方です。無理して気を遣ってくれることもないので、序盤では僕自身から色々発信していきたかったんです」
“最高のパートナー”になるためには、役柄を飛び越えて、演じる本人への理解を深める。新垣もその試みには同調していたようで「言葉を投げかけてくれる一方で、こちらが発信する小さなことでも、きちんと受け取ってくれました」と表情を綻ばせる。やがて「(“ミックス”のペアのように)同じ方向を向いていてくれたんです」と言葉を紡ぎ、改めて謝意を示す姿からも、2人の固い絆が浮き彫りにされていた。
本作では、古沢流ストーリーテリングの妙に目を見張る。どん底状態の男女が最悪の出会いを果たし、それが最良の縁だったことに気づくまでを紡ぐ恋物語、個性的な卓球ド素人集団の「楽しめればいい」という思いが「勝ちたい」という強い意思へと転じていくサクセスストーリーが、笑いを禁じ得ない軽妙な語り口によって見事に“ミックス”されている。「リーガルハイ」で古沢ワールドを堪能した新垣は「(魅力は)いっぱいあってですね…」と逡巡しながらも、その世界観の核を見抜いていた。
新垣「完成した作品を見て、爽快感があるなっていう印象が強いんです。わりとクセがあるキャラクターたちが多いように見えるんですが、自分たちが蓋(ふた)をしてしまいそうな感情や、ブラックな部分を吐き出してくれる。もがきながらも前に進んでいって、何かを解決していく姿がすっきりします。もしかしたら自分の腹の底では思っていたかもしれないことを、ユニークに描いてくれる部分が面白いんです。今回は“ミックス”のペア、つまり男女としてのペアという意味合いもあって、そのバランスが絶妙。ラブストーリーなんですけど、照れ臭くなく、どこか仲間的な意識を感じる部分があって、より深い繋がり、絆を感じられる。素敵な化学変化だなと思っています」
一方、数々の古沢脚本を演出してきた石川監督については「柔軟な方」という表現がぴったりだという。「私たちが初めて演技に臨む時の空気を受け入れてくれた」と語る新垣だったが、「一方で、突然予想もしなかった演出をなげてくることもあって」と告白。それは本作を象徴するロマンティックな恋にまつわるシーンなのだが「最初はやりすぎなのではないか、見ている方が気持ち的に追いついてこれるのかと感じることもあったのですが、実際に完成したものを見たら、多満子と萩原の不器用さ、幼さ、それが可愛らしく見えたんです。『ミックス。』らしいロマンティックなシーンになっていました」と石川監督の手腕に驚きを隠せない様子だった。
また往来するボールの多くがCGを駆使して描かれているが、長期間練習に励んだ新垣らの身体表現によって、手に汗握る試合や練習が創出されている。劇中の卓球指導を行ったのは、広末涼子と佐野勇斗が扮するペアの試合相手としても出演している卓球教室「YOYO TAKKYU」の川口陽陽氏。コンマ数秒の世界で繰り広げられる試合には、2人のこだわりが反映されている。
瑛太「大胆な動き、フォームを大きく見せられたらと思って、先生から教わっていました。(役の都合上)基本の右手打ちから、サウスポーにも挑戦しなくてはならなくて、設定を変えてもらえないかと思うほどプレッシャーを感じていました。でも、実際に左手で打ったら、楽しくて。クセがついていない真っさらな状態だったので、入り込みやすかったんです。それからはずっと練習をし続けていましたね」
新垣「実際の動きと、映像的に栄える動きは多少違うんです。(川口氏が)より格好よく見える動きをつくってくださったので、なるべく忠実に応えていました。後半の撮影になるにつれて、(動きが)体になじんだ瞬間があって、そこからは気持ちで打っていました。特にクライマックスの全日本選手権卓球選手権大会(神奈川県予選)のパートでは、気持ちで打ってるんです」
瑛太の新垣に対する信頼は、撮影を通じてかなり深まったようで“衝動的”にアドリブで切り返すという芝居も行ったようだ。「多満子と萩原の関係は今どういう状態かという点をわかりやすく伝えるために、セリフではない動きで表現したんです。本番でやっちゃおう。本番でやったら、ガッキーはどんな顔をするだろうと」という発言に、新垣は「多満子としてちゃんと受け止めたつもりです」とほほ笑む。さらに、広末、佐野、田中美佐子、遠藤憲一が集った「フラワー卓球クラブ」の撮影の合間で行ったゲームでは、ドッキリにかけられてしまった新垣が思わず“泣き笑い”。「フラワー卓球クラブのメンバーでも賑やかなんですけど、蒼井優さんと森崎博之さんが加わった中華料理店での撮影は、もっと和気あいあいといった感じでした。2人の存在感がすごかったです」と現場での新垣は終始笑顔が絶えなかったようだ。
“恋と人生の再生”を主軸に、大人から子どもまで楽しめる王道エンタメに仕上がった「ミックス。」。始まりから終わりまで、スクリーンにクギづけになってしまう理由のひとつは、初顔合わせを経て“最高のパートナー”となった新垣と瑛太だからこそ醸し出せる唯一無二の空気感だろう。