「堅実過ぎて教科書的なSFホラー」ライフ(2017) 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
堅実過ぎて教科書的なSFホラー
火星から採取した未知の生物に、宇宙ステーションのクルー達が襲われるSFホラー。
国際宇宙ステーション(ISS)のクルー6名は、無人火星探査機ピルグリムを回収。採取された火星の土を分析すると、単細胞生物の存在を確認。初の地球外生命体との遭遇として世界的なニュースとなり、生命体は「カルビン」と名付けられた。しかし、成長したカルビンは人間側からの電気ショックによる蘇生処置を攻撃と認識し、生存の為に反撃を開始。ISSは瞬く間に惨劇の舞台へと変わってゆく。
【宇宙ステーションという閉鎖空間で、未知の宇宙生物に襲われる】というプロットは、まんまリドリー・スコットの『エイリアン』だが、当時無名だったシガニー・ウィーバーらと違い、本作は出演陣がとにかく豪華。
主人公である地球人同士の争いに嫌気が差した医師デビッドにジェイク・ギレンホール、カルビンの管理を任される検疫官ミランダにレベッカ・ファーガソン、エンジニアのローリーにライアン・レイノルズ、ベテラン宇宙飛行士でシステムエンジニアのショウに真田広之と、ジャンル映画とは思えない豪華な顔ぶれ。
しかし、肝心のストーリーについては、この手のSFホラーのお約束に終始忠実で目新しさは無く、オチも簡単に読めてしまい面白味に欠ける。正直、この作品によくこれだけの面々が揃ったものだなと不思議な気持ちでいっぱいだ。
面白いのは、本作で最初の犠牲者(死亡者という意味で)となるのが、ライアン・レイノルズ演じるローリーだという点だ。ベテラン俳優がカルビン相手に成す術なく殺されるという展開は正直驚いたし、ある意味本作のピークだった。調べると、どうもこれは同時期に別作品への参加も控えていたレイノルズを、いち早くクランクアップさせる為の処置だったそう。
生物学者のヒューは、その行動についていくつか謎の残る人物だった。
カルビンを発見し成長を見守りつつも、自らの不注意で研究室の設備に故障を起こしてしまい、それが元となってカルビンを仮死状態にしてしまう。彼が仮死状態のカルビンを強制的に蘇生させようと電気ショックによる処置を試みた事で、カルビンは人間達を敵と認識して襲い掛かるようになる。
この研究室の設備不良は、本当にヒューの不注意で起きた事だったのだろうか?カルビンが高い知能を有している以上、自らが外に出る為意図的にシステムを故障させた可能性だってあるはずだ。というか、そういった展開を期待していたのだが…。とはいえ、本作は終始人間側の都合でカルビンを招き入れ、蘇生し、成長させ、コントロールしようとした傲慢さに対する、生存本能の逆襲というテーマがあるので、カルビンがその狡猾な知能で脱走を試みたとなると、テーマから外れてしまう事にはなるのだが。
また、カルビンの危険性を確認し、駆除する為に無酸素空間に閉じ込め、再び仮死状態にしようとする作戦の最中、ヒューはハッチの向こうを横切ったカルビンの影に激しく怯えてハッチを閉める。しかし、心不全によって命の危険に晒された際、仲間達から蘇生処置を受ける場面で、既に足にカルビンが張り付いて血肉を栄養に成長していた事が判明する。
この時、彼はカルビンに貼り付かれている事を認識した上で、クルー達に黙っていたのだろうか?彼が足が不自由で、地球では車椅子生活を送っている事は事前に示されているので、足の感覚が鈍く気付けなかった可能性はある。しかし、同時に彼は自らが発見して成長を見守っていたカルビンに一種の愛情が芽生えていた事も確かだろう。となると、自らの失態でカルビンに敵意を生んでしまった罪悪感から、襲われても言い出せなかった可能性もあるのかもしれない。侵入のタイミングが判然としない以上は、そうした邪推も可能なのだから。
司令官エカテリーナ(キャット)の、自らを犠牲にしてでもカルビンを再びステーション内に入れまいとする自己犠牲のシーンはベタだが良い。カルビンが宇宙服の冷却剤を食い破った事で、漏れ出した冷却剤がヘルメット内に充満し、“宇宙空間で溺れる”という状況に陥るのは新鮮さがあった。とはいえ、すぐさまカルビンはスラスター部分からの侵入を試み、ショウ達の抵抗虚しく侵入を許してしまうので、彼女の一連の勇気ある行動はアッサリと水泡に帰すのだが。
本作の主役と言ってもいい、火星から採取された未知の単細胞生物カルビン。ヒュー曰く「火星を支配したのかもしれない」とされる程の高い生命力を持ち、宇宙空間ですらある程度の時間は活動可能という驚異的なスペック。水や酸素を必要とする為、それらが確保出来ない環境では仮死状態となって休眠するという、生命としての無駄の無さ。
序盤こそ、小さく愛らしい姿をしているが、一度牙を剥いたら何とも厄介。終盤で両翼や頭部を思わせる形状に進化してからはカッコイイが、中盤のよく動くヒトデのような見た目は滑稽で何処か笑える。
忘れてはならないのが、この生物は多くのエイリアンを扱ったSF作品の生命体とは違い、悪意や繁殖ではなく生命維持の手段として人間を襲うという点だ。電気ショックによる蘇生処置を攻撃と捉えたからこそ、それに対する生命維持の為の反撃、それに必要な栄養接種としてクルー達を襲う。カルビンの視点に立ってみれば、いきなり連れ出されて蘇生された挙句、攻撃までされたという散々な目に遭っているのだから。
地球を守る為に、カルビンを持ち込ませまいとするデビッドの自己犠牲は、それが失敗するというオチまで容易に読めてしまう為、単に後味の悪いものとしてしか作用していないのが残念。
出来れば、カルビンには分裂による種の存続意思を持たせても良かったように思う。ヒューの足に絡み付いていたシーン含め、「2体居たから出来た」と判明する演出があった方が、ラストも驚きを一つプラス出来た気がするのだ。それこそ、わざわざ脱出艇がAとB2つ存在する事を示していたのだから。
無事、脱出艇で地球に帰還したミランダ。しかし、分裂していたカルビンが紛れ込んでおり、分裂による種の存続機能を知るミランダ。後悔してももう遅く、脱出艇を回収しに来た船や地元民の船含め、新たな地で進化の為襲われるというラストの方が強烈なインパクトを残せたと思う。
宇宙ステーションのセットを実際に作って撮影されたらしく、出演陣の豪華さ含め力の入った一作なのは分かる。しかし、だからこそ既存のSF作品をなぞるだけに留まらずに、更なる驚きやアイデアを見せてほしかった。