ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ : 映画評論・批評
2017年7月25日更新
2017年7月29日より角川シネマ有楽町ほかにてロードショー
夢も希望もない資本主義の現実。マイケル・キートンの鬼気迫る無表情に震撼
まるで、資本主義のからくりを絵に描いたような話ではないか!? 心の中に並み外れた野望を秘めながらシェイクミキサーを売り歩くレイ・クロックが、ある日、ミキサーを大量発注してきたハンバーガー店のオーナー、マクドナルド兄弟の斬新なサービス形態に着目し、あれよあれよと言う間にビジネスの中枢へと入り込んでいく。
商売の拡大より、美味しいハンバーガーをどこよりも安く、早くお客に提供したかったマック兄弟を説得し、クロックは店舗拡大が可能なフランチャイズ権を獲得。それは品質重視のマック兄弟の企業理念に反するものだったが、時はアメリカでフランチャイズビジネスが一気に成長した1950年代。クロックの仕掛けは的中し、やがて、彼は予想を遙かに超える急展開に呆然とする兄弟を飲み込むように、たったの100万ドルで店名も含めて命綱の商権を買い取ることに成功。何の躊躇いもなく"創業者"を名乗るのだった。
ちょっと待ってよ!! と誰もが思うだろう。どう考えても創業したのは最初にカリフォルニアの田舎に画期的なバーガー店をオープンしたマクドナルド兄弟ではないかと。でも、開業時の営業形態とメニューを受け継ぎ、それを地球規模の巨大ビジネスに作り替えた、強引に言い換えると"再創業"したのは、レイ・クロックかも知れないと思わせるのが、本作の肝だ。もしも、クロックがいなかったら、僕らは小腹が空いた時にマックのダブルチーズバーガーに思い切り食らいつくことも、ハンバーガーだけに許される一気食いの快感を享受することもなかったかと思うと、この微妙な創業者論はさらに迷走するのだ。
極め付けは、劇中の後半でクロックが言い放つ、マクドナルドはハンバーガーを売って儲けているのではなく、世界各都市の一等地に店舗を出店し、フランチャイジー(加盟店)からその好立地に見合ったリース料を徴収して主な収益を得ている"不動産投資ビジネス"だという事実だ。ハンバーガーを頬張る喜びも萎える、まさに、夢も希望もない資本主義の現実。クロックを演じるマイケル・キートンの毎度鬼気迫る無表情が、これ程冷え冷えとして震撼させる瞬間はない。
(清藤秀人)