ドリーム : 映画評論・批評
2017年9月19日更新
2017年9月29日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
誇り高くチャーミングなヒロインたちが差別と闘う、痛快エンターテイメント
あの名作「ライトスタッフ」で描かれた、アメリカ宇宙開発史に残るマーキュリー計画には、知られざるヒーローたちがいた。驚くべきことにそのヒーローたちは女性で、しかも有色人種だった! これは、埋もれていたアメリカの歴史秘話をベースにした全米大ヒット映画。教育的な価値も評価されているが、堅苦しい偉人伝とは違う。「胸のすく思い」をこれでもかと味わわせてくれる、非常によくできたエンターテイメントなのだ。
ソ連との宇宙開発競争に火がついた1960年代の初頭。バージニア州にあるNASAの研究所では、ずば抜けた数学的才能をもつ3人の黒人女性が働いていた。しかし南部では、人種分離政策がまかり通っていた時代。計算係(当時はこの役職の人がコンピューターと呼ばれていた)のキャサリンも、管理職の仕事をこなすドロシーも、エンジニア志望のメアリーもその真価を認められず、仕事の妨害を受ける毎日。しかし、彼女たちは屈せずに闘う。どう闘うのかといえば、理不尽な状況に耐え、ただ“ライトスタッフ”(真にふさわしい資質)を行使することで周囲の心を、社会を動かすのである。
黒人で女性という2重の差別にさらされた彼女たちの無念や悔しさはよく伝わるのに、暗い気持ちにはならない。3人のヒロインが誇り高くチャーミングな上に、フィクションを織り交ぜたドラマティックな作劇やテンポ、小気味いいセリフがキマリ、功を奏しているからだ。たとえば当時は、コーヒーポットやトイレも白人用と黒人用が別。キャサリンは職場から1キロ近く離れた黒人用トイレへと、走って用足しに行かなければならない。ハイヒールでちょこまか走るキャサリンの必死さが笑えると同時に、仕事場を長く離れて上司にとがめられないか、漏らさずに間に合うかというサスペンスが生まれ、こうした差別がいかにバカバカしいかを実感させられる。
彼女たちを小バカにしていた白人たちに目から鱗を落とさせるような演出も見事だし、メアリーが正当な権利を求め、裁判所で白人男たちを説得するセリフは、きっといつまでも心に残る。これはアメリカの有能な黒人女性たちが黒人女性にとっての「初めて」をいくつも開拓し、道を作った物語。アメリカが過ちを正し、前へと進んだ物語。痛快なエンディングに、気持ちよく泣けるだろう。
(若林ゆり)