「“三度目の殺人”は確かに行われた」三度目の殺人 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
“三度目の殺人”は確かに行われた
是枝裕和監督の作品が好きだ。
法廷サスペンスのジャンルが好きだ。
なので、本作を期待しない理由が何処にも無い。
この秋…と言うより、今年公開作の中でも特に楽しみだった一作。
結構賛否吹き荒れてるようだが、確かに好き嫌い分かれる作風だろう。
まず、単純明快なエンタメが好きな人はダメ。
勧善懲悪、白黒はっきり付かないとダメ。
モヤモヤすっきりしない終わり方の映画がとにかく嫌い。…などなど。
映画はエンタメであるべきという考えは大前提だが、同時に観客に考えを委ねるような作品も好き。韓国サスペンスのような後味悪い作品が好きなのもその一例。
加えて書き出しの理由もあって、本作は非常に面白かった!
展開は淡々と。静か。
派手なシーンは皆無で、退屈との声も出ているが、本作に派手なシーンがあったらそれこそ違和感あるだろう。
邦画法廷モノの大傑作『それでもボクはやってない』だって、派手なシーンは皆無で、淡々と静かだが、凄まじく引き込まれた。
本作も然り。
さらに本作は、サスペンスとしての醍醐味もあるのだからケチの付けようがない。
容疑者、三隅。
開幕早々、殺人シーン。明らかにクロ…と、まず思う。
しかし、取り調べするや否や、供述がコロコロコロコロ変わる。
何々だったのか、したのか?…と問われると、曖昧に「はい」と返答。
後から違うじゃないかと問い詰められると、「そうでした」「ちょっと勘違いして…」と、どうもしっくり来ない。
また、意味不明なのか意味深なのか分からないような言動もしばしば。
人柄は穏やか。が、彼の言う事に本当に見てるこちらも翻弄される。
抑えた演技ではあるが、そこから異様な凄みを滲み出す、いつもながらさすがの役所広司。
主演は福山雅治演じる弁護士・重森。真実よりも勝ちにこだわるエリート。
福山×エリートは、同監督の『そして父になる』同様のステレオタイプでもあり、彼が三隅に翻弄され次第に真実を知ろうとする動機もちと弱い気もするが、彼目線で見る側も真実を追求したくなる入り口として一役買っている。
福山と役所の度々の対峙シーンは素晴らしい緊迫感。
監督と福山の2度目のタッグも上々。
相思相愛だったという初タッグの監督と役所。
是枝監督×福山雅治×役所広司のケミストリーは見事だった。
もうちょっと演者について言及。
奇しくも本作には、嫌われ女優と渦中のお騒がせ女優が揃って出演しており、おそらく作品を見もしないで、作品の中身関係ナシにその部分だけ叩くであろう輩が沸いて出るだろうが、そんなの言語道断!
両者共、非常に良かった。
特に広瀬すずの、事件のキーパーソンで陰と悲しみの演技を見せられると、女優としての才は素晴らしいものと改めて思わざるを得ない。
吉田鋼太郎演じる弁護士も何だか本当に居そうと思わせ、満島真之介演じる若い弁護士はなかなかいい所を付く。
にしても、市川実日子がスーツを着ると、どうしても尾頭さんにしか見えなくて…。
供述が二転三転する三隅。
嘘か真か、本当の事を語り出す。
そして、被害者側もまた隠された話を…。
捻り歪んだそれぞれの証言の中に、筋道通り繋がった、真実の姿が…。
ところが…
本作は根底に、是枝監督の十八番である家族の関係をそれとなく織り混ぜつつ、裁判の不条理を鋭く突いている。
裁判に於いて真実とは?
本当に真実とは、尊重されるものなのか?
それが、明かされて誰かの心に深い陰を落とす真実ならばやむを得ないが、本作の場合は違う。
裁判は時に己の利益の為にただ事務的に処理され、誰も真実などどうでもいい。
真実を欲し、真実を知りたい者は居ないというのか…?
“三度目の殺人”。
が、劇中語られる殺人は、二度。重森の30年前の事件と、今回の事件。
最初の事件なんて正直省いても良かったのでは?…と、途中まで思っていたが、見終わって意味を成している事が分かった。つまり…
30年前の“一度目の殺人”。
前科者が関わっているから、今回も当然犯人。“二度目の殺人”。
誰も彼の真実を信じてくれない。
そして下される“三度目の殺人”。
この“三度目の殺人”こそ、最も罪深い。
…いや、“一度目の殺人”重森も“二度目の殺人”咲江も、同情の面はあるとは言え、殺人を犯している以上罪深い。
だからこそ、真実から目を背けてはならない。
コメント失礼します。
二番目の殺人・・・咲江が!
三隅が手伝って・・・ですか?
もう私の頭の中はぐちゃぐちゃになりました。
観客を撹乱するのも監督の意図・・・なのですね。