劇場公開日 2017年7月8日

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メアリと魔女の花 : 映画評論・批評

2017年7月4日更新

2017年7月8日よりTOHOシネマズスカラ座ほかにてロードショー

ジブリを離れ新たな世界へ踏み出した監督の決意が伝わってくる

米林監督の作品にはいつもヒロインが未知なる世界へ向けて歩み出す中で、ふと静かに意志を固める瞬間がある。わずかな表情の変化。研ぎ澄まされる空気。奇をてらわず、こういった描写を真正面からじっくりと捉える様に、彼の語り手としての誠実さや真摯さが伝わってくる。

その長編第3作目は、これまでに比べてだいぶ事情が変化した。母体のジブリ制作部門は一旦解散となり、今回はまさに彼自身が未知なる世界に踏み出しての挑戦となった。かくも彼はジブリから遠ざかったはずなのに、なぜか今回の作品には表現の端々に様々なジブリ作品の記憶が夢の扉からあふれ出してきたような、どこか率直なほど懐かしい描写が詰まっている。その只中を突き進む赤毛の少女メアリ。豊かな自然に囲まれた村に引っ越してきたこのヒロインはある日、7年に1度しか咲かない不思議な花と遭遇。それを手にしたことから一夜だけの魔法使いとなり、ホウキにいざなわれて魔法大学へとたどり着くのだが————。

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魔女の宅急便」のような代々受け継いできた魔女ではなく、メアリはごく普通の女の子に過ぎない。魔法大学の敷地内では奇想天外な描写が次々と巻き起こるし、個性豊かなキャラクターや多様な動物たちも入り乱れる賑やかさ。しかしこれほど魔法を詰め込みながらも、最終的に運命を切り開くのは自分の意志。ジブリで培ったアニメーションの魔法を今後どうやって越えていくべきか問い続ける米林監督は、このヒロインを自身の羅針盤として捉えているのかもしれない。そう考えると彼女が握りしめるホウキがまるでペン先のようにも見えてくるではないか。

思い出のマーニー」で丸いメガネの少女役を演じた杉咲花の声が、本作でも等身大の角度で実に素晴らしく響き渡る。田舎での暮らしに退屈し、魔法との出会いでドキドキを加速させ、やがて一つの過ちを取り返そうと小さな勇気を身体いっぱいにみなぎらせていくメアリ。そして本作もやはり、彼女が静かに意志を固める様子を真正面からじっくりと捉えるのだ。その瞬間、少女のあどけなさは消え、瞳は大きく見開かれ、凛とした表情が広がっていく。「マーニー」に比べて観客の対象年齢はグッと幅が広がったようにも思えるが、年代によって多層的な見方もできる本作。きっとそれぞれの思いを投影させながらこの映像世界を思い切り滑空することができはずだ。

牛津厚信

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