ノクターナル・アニマルズのレビュー・感想・評価
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成熟した大人向きの余韻深い作品
主人公Susanの元に20年近く前に別れた元夫Edwardからいきなり新作のゲラ刷りが送られてくる。作家志望だった彼がまだ小説を書き続けていたこと自体、彼女にとって意外だった筈ですが、彼がその新作で何を彼女に伝えたかったのか、その見方によって印象が全く変わるかも知れない、そんな作品でした。過去の彼女の仕打ちに復讐したかったのか、自分を作家として認めさせたかったのか、はたまた彼女と和解したかったのか.、あるいは... この点は原作にも書かれていないようですので想像の域を出ませんが、彼と別れてからSusanは美術商としてそれなりの成功を収めつつも、公私の蹉跌を経験し、自省に向き合える時機であったことは間違いないでしょう。最後の最後まで謎解きをさせぬまま終わってしまうのですが、観終わった後も暫く座ったまま感慨に耽りたいような、大人の余韻を楽しませてくれる作品でした。
本を読む。ただそれだけのことが洗練されたミステリー。
「シングルマン」以来のトム・フォード監督第2作目。「シングルマン」は私の中ではその年のベストとして君臨し、未だにあの物憂げで悲しい程美しかった映画のことを思ったりするほど大好きな作品だった。そして第2作目となった「ノークターナル・アニマルズ」を見ても、やはりトム・フォードの美意識がきらめいていて、実に美しい映画だった。何しろトム・フォードだ。都会的な洗練された美意識が映画にも投影されて、それは西テキサスという、アメリカでも特に田舎の奥地を写し撮ってさえ、トム・フォードの演出がかかると都会的な質感がベールのように覆いかぶさる。そしてその洗練が「シングルマン」では中年の男の孤独とリンクし、今回の作品ではミステリーやサスペンスとリンクした。ファッション・デザイナーが映画の監督をするというと、ファッション誌的な華美を連想しがちだが(ジェナ・マローンの着用した衣装と「REVENGE」の美術品には若干そういう気配もあるものの)、トム・フォードは自身の美学を完全に映画的に応用しており、それがストーリーが併せ持つミステリーを呼応させる効果を生んだ。原作の小説もストーリーの大筋は同じようにエドワードの書いた小説とスーザンの現在と回想が同時進行で描かれる手法で映画と変わらないが、原作にはこの映画のような都会的な質感やソフィスティケートされた雅馴といったものは必ずしもあるわけではなく、いわばこの映画オリジナルなもので、おそらくはトム・フォードが付与したものなのだろうと思われる。映像を見ているだけでドラマティックだし、映画美術をみているだけでサスペンスフル。映画が瀟洒であればあるほど、どこかミステリアスでスリリングさを増していく相乗効果。改めて、ファッション・デザイナーとしての才能だけでない、映画監督としての才能を再確認する作品だった。
本を読み、思い出を振り返る。ただそれだけのことがこんなにもミステリーになるなんて。スーザンはただ、本を一冊読んだだけだ。それ以外のことは何もしていない。しかし、彼女の中にはあらゆる感情が沸き起こってくる。エドワードは、かつて小説家志望であることを打ち明けた相手に、ようやく完成した処女作を批評してもらいたかっただけかもしれない。そしてエドワードがしたことは、ただ小説を彼女に送り付けたそれだけだった。しかしスーザンは、彼の書いた小説を読みながら、彼の真意や他意を読もうとしてしまう。小説の登場人物、トニーはエドワードかもしれない。ローラはスーザンかもしれない。小説は愛かも知れない。いや憎しみかも知れない。いやそんなことはない。トニーはエドワードではないし、ローラはスーザンでもない。小説は愛でも憎しみでもないただのフィクションかもしれない。しかし本を読むという行為は、その物語を生きることであり、否が応でも自分自身と重なっていく。まして別れた夫が書いたものなら尚更。本と現実と記憶がどんどん混同されて眩暈のように巡っていくスーザンと共に、観客もこれは回想録なのか?スーザンへのメッセージなのか?それは愛の告白なのか、復讐なのか・・・?と、惑わされて行く。ミステリーとは、起こる出来事のことではなく、内面に沸き起こるもののことを言うのだろうと、この作品を観て思った。ミステリアスなことが起こり、ハラハラすることが起こるからサスペンスなのではない。自分自身の内面が、惑い、憂い、そして見えぬものを見ようとし、見てもないものを見たように思ったりすることが、ミステリーでありサスペンスなのだなぁということを強く感じた。それこそ、ただ本を読むというだけの行為でさえ。映画を見るというだけの行為でさえ。
そしてエドワードが書いたとされる劇中劇がまた息もつかせない内容で吸引力が高い。原作の小説でも、彼の小説の部分は読み始めると止まらなく魔力を持っていた。物語は悲劇の一途を辿り、正直不快でしかない。きっとスーザンも同じ気持ちだったろうと思う。それでもスーザンが心乱しながらもページをめくらずにいられない気持ちがよくわかるような物語が映画の中を並走し、それが現在のスーザンと過去のスーザンとフィクションの世界のスーザンとを絡ませていく。ここでアイラ・フィッシャーの起用は完全に確信犯。回想ではないけれど他人ではない人物を演じさせるのに、アイミー・アダムスとアイラ・フィッシャーを重ねるのはあまりにも絶妙過ぎてちょっとしたギャグみたいなもの。でも彼女ら二人を共演させる上でこれ以上ベストなやり方は見つからない。
ラブストーリーであり、ミステリーであり、心理サスペンスであり、心理ドラマでもあるこの作品。謎を残して終わるエンディングは、余韻となって良かったような、あらゆる解釈が取れるような、いや解釈の取りようがなくて不服なような・・・という感じがして、少し物足らない部分も残る。最後の約束は何だったのか?エドワードの本意は?そしてあの小説の真意は?とスーザンと同じ気持ちになったまま映画は終わる。ミステリアスな終わり方で好きだと思う反面、自分の解釈を取るにはもう少しヒントが欲しいような、そんな気持ちにさせられたものの、都会的な大人のミステリーを味わう洗練された作品で、やはり私はトム・フォードを好きだと思った。
圧巻❗
語り口の妙
ノクターナル・アニマルズ
2017年105本目の劇場鑑賞。
20年前に別れた夫から突然小説が送られてきたことに戸惑いながらも、
その衝撃的な内容に惹きつけられていくヒロインの不安と葛藤を、
過去と現在に加え劇中小説の物語も巧みに織り交ぜ、
美しくかつスリリングに描き出す。
開始早々度肝を抜かれるオープニングで、
グイグイ引き込まれて行くこの感じ。
芸術とは人の心に衝撃を与えて奥に潜っていくもなんですね。
小説の中の物語と現実のストーリーを平行して映し出し、
曖昧になっていく現実と小説の世界。
全く先の読めないストーリー展開でした。
豪華で演技力のある俳優たちの出演、
印象的だったのは刑事役を演じたマイケル・シャノンです。
とにかく顔が怖すぎでした。
美しいほどの完璧な復讐劇は見応えありました。
いきなり醜く、気持ち悪いのが続く
見事な復讐!
『シングルマン』がかなり好きなので、こちらの作品も期待して観に行きました。
なんでしょう…冒頭からグイグイ引き込まれて行くこの感じ。
映像、台詞の一語一句見逃せません。
母のようにはならないと思えば思うほど近づいて行き、母が言った通りの結末を迎えるスーザン。
彼の才能を信じず、酷い仕打ちをした挙句、一緒になった夫とも上手くいってないところに、小説が届く。
今も思い出し、小説の面白さにどんどん惹かれ、会うことにウキウキドキドキ。
上げて上げて最後に落とす感じが、ゾワゾワしました。才能で復讐…
『Revenge』と描かれた絵画と愛しているなら、もっと努力をしなきゃいけないって台詞が、なんだかとても印象的でした。
ラストシーンのスーザン、全てを悟った表情に見えました。
最初のインパクトが凄い…でもラストには繋がらず
トムフォードの感性により広がる鮮やかかつ時には虚構的、時には暴力的...
トムフォードの感性により広がる鮮やかかつ時には虚構的、時には暴力的な世界観に不思議と引き込まれていく
この映画で描かれるある種の切なさ、そして怨念をトムフォードの幅広く壮大かつ繊細な表現とエイミーアダムスとジェイクギレンホールの対照的な演技でより魅力的に展開していく様が見事にマッチしている
この非現実的な現実空間(主人公スーザンの現在地LA)と限りなく現実的な非現実空間(小説の中のテキサス)の対比が素晴らしく効いているのもトムフォードの狙いとして大成功である
現在の空虚な生活、過去の自分がした仕打ちとそれについての想いが込められた小説を経ての待ち合わせにより元夫の20年の復讐は完遂する
主人公スーザンはその時、より、空っぽな物が胸の内に覗かせるかもしれないであろう
そしてそれを見届けた観客もまたこの物語に対して空っぽな物が胸の内に生じているのかもしれない
圧倒された
オープニングは、「あれ」そのものが作品なのではなく、メタファーだと思った。そう解釈しても成立するのでは?
自分は、ストーリーと毒気に気をとられすぎて、映像の美しさみたいなものを堪能する余裕が足りなかった。もう一度観たい。今後上映館が増えるのだろうか。
「後悔」
「メッセージ」のエイミー・アダムス、「ラビング 愛という名前のふたり」のマイケル・シャノン出演で、今年のアカデミー賞、ゴールデングローブ賞に引っかかってた作品。
監督はファッション業界で有名なトム・フォード。
主人公はLAのアートギャラリーのオーナーで、再婚の夫との空虚な生活を送る中、執筆家の前夫から「Nocturnal Animals(夜の野獣たち)」というタイトルの小説の原稿が送られてくる。その小説は、自分の目の前で妻と娘をテキサスの荒野で連れ去られ、殺されるという暗い話。読み進むうちに、今の自分と、小説の中のシーン、前の夫との過去とが行き来する。
映画は小説のシーンが多く占めるが、エイミー・アダムスは、リッチだけど空虚なマダムと20代の大学院生を見事に演じ分けている。
完璧
全く欠点のない、完璧な映画。
主人公スーザンは、仕事で成功を収めているが、夫とはあまり上手く行っておらず、精神的には満たされていない。そこに別れた元夫、エドワードから小説が届く。彼とは20年前に別れており、そのときにひどい仕打ちをしたという。その小説の内容とは。そしてその小説が意味するものとは。
まず、この小説が送られてくる前までに彼と別れてから連絡は取っているのか。スーザンは「数年前に電話をかけたが一方的に切られた」と言っている。これは、エドワードがスーザンに対して“仕打ち”を気にしてるということだ。
そして、小説を梱包していた紙で指を切ってしまう。ここもエドワードからのスーザンに対する想いがうかがえる。
そして、ここから現実と小説と過去の交錯が始まるのだが、小説の内容が占める部分が圧倒的に多い。そしてその力量に圧倒される。全般的な主題はかなり考えさせるものだが小説の内容だけみればスリラーとしてもヒューマンドラマとしても楽しめるものとなっている。小説の冒頭はワンシーンでの長丁場となって、先の読めない展開にスクリーンに釘付けになった。
不条理さがこの冒頭のメインテーマとなっていて、エドワードがあくまで傍観者となるシチュエーション、そのジェイクギレンホールの演技が『複製された男』を思わせた。
その点、エドワードに代わりにレイの存在感がすごかった。アーロンテイラージョンソンの演技力には開いた口が塞がらない。快楽のみを求めるクズだが、巧みな言い回しで相手に恐怖を植え付ける姿が丁寧すぎるほどに描かれている。まさに“魅力的な悪役”だった。
また、小説内でのもう一人の重要人物が警官であるボビー。ボビーを演じたマイケルシャノンはマンオブスティールでのゾッド将軍役で有名だが、今作ではレイと対照的に描かれる正義の味方的な立ち位置である。エドワードも我々観客もボビーという人物がいるだけで心強さを得る。物語が進んでいくとボビーの人間性も明らかになるのだが、彼はこの憎悪に満ちた物語に差し込む一筋の光、救いとなる。
劇中小説はこの絶妙なバランスがなんとも美しいのだ。芸術的な作品になっている。
そしてこの小説を読み進めていくにつれ、スーザンは蘇る過去の記憶、そして日常が小説によって歪んでいく。その映像化というのがまさにアートのような完全なものとなっており、すんなりと世界観に入り込めたのはトムフォードの手腕だろう。彼はシングルマンから約7年の間をあけた二作目となっているがシングルマンで魅せた心情描写とはまた違ったタイプの演出で我々を魅了させた。トムフォードの監督としての実力には圧巻。
ーーーーーー以下ネタバレーーーーーー
●マイケルシャノン演じるボビーは肺ガンであることを途中で打ち明け、どこまで正義の遂行をする?とエドワードに問う。ボビーには先がなく、どうしようのもない絶望を受け入れるとともに最期をエドワードに託したい。せめてもの救いを求めている。これって…エドワードの心情そのものではないか?エドワードはスーザンに裏切られる。2度も酷い裏切りを受ける。エドワードはスーザンから裏切られ、どのように感じたのか。ノクターナルアニマルズの文中でボビーの心情の情報がエドワードなどと比べ少ないのはエドワードからスーザンへの問いではないか。あの時、どのように思ったのかという。ボビーは極悪なレイたちをのさばらせてはおかないと憤慨する。しかし、肺ガンを打ち明ける時は怒りというよりは絶望の方が強いようにみえる。想像の余地をスーザンと観客に与えている。
大人の男女の再会物語
あらすじを少しだけ読んで鑑賞
いい映画だけど最後だけ腑に落ちない
あと最初のシーンは何だったんだろう
それだけインパクトのある始まり方と終わり方
決してハッピーエンドではないけど、凝ったシナリオと作りになっていて深く味わいたい映画
2017-77
リベンジ(復讐)。
トム・フォードの化粧品が好きです。
シャネルやDior、LANCOME等のデパコスよりもちょっとお高めですが、
暖色と寒色のすみわけが秀逸で、それは映画の中でも随所に感じられます。
色使い、カットの仕方、時々映る壮大な景色等……これはデザイナーが撮ったんだと知らしめているような。
やっぱりアーティストはヌードが好きなのかな🤔
冒頭のシーン。
いきなり何が始まるんやと思いました。
過去と現在、さらには物語の世界がくるくると入れ替わる作品はよくあり、
その多くがわたしのようなアホには理解不能だったりするんですが、この作品は親切でした。
敷居の高い作品ではないけど、芸術は溢れている。
ジェイク・ギレンホールの熱演もすごいし(妻夫木君の上手さと似ている気がする)、
キックアスはこっちが腹立たしくなる悪人を見事に演じきっていて、役得だと思いました。
エイミーは安定。だからこそ、そんなに目立ちはしないかも。
最後は観客をぽーんと投げ出す感じで終わるけど、トム・フォードが出す答えを見たかったなぁ。
あ、でもそれはオシャレじゃないかも。
二つの復讐
インパクトあり過ぎるオープニングから呆気に取られ、荒廃したテキサスを舞台にポンティアック・GTOと三人組のスタイルや雰囲気がアメリカン・ニューシネマの如き70年代のアメリカ映画の暴力性を醸し出す、アーロン・テイラー=ジョンソンの存在感が「デッドマン・ウォーキング」でのショーン・ペンを想起させ、緑のウエスタンブーツの小物使いが効いているしマイケル・シャノンの野暮ったいカウボーイなスタイルも格好良く、オンブレーシャツにカーキ色のコーデュロイパンツがお洒落なジェイク・ギレンホールと前作に続きセンスがダダ漏れなトム・フォード。
現在と過去を描きながら間に挟まれる小説の物語が映画としては三者三様に作り話でありながら、凄まじく興味の惹かれる「夜の獣たち」の映像化でもあり復讐モノとしてのジャンルから、現状を分かり切った上での優越感にでも浸りながら本当の意味で復讐を果たすエドワード、ラストに再会することもなくスーザンの不安定な現状を嘲笑うかのように追い詰めた結果、傷つき果てた男の焦ったく途方に暮れる行動が変態的でもあり、将来の人生を選択する術に後悔も正解もあらず、心だけは満たされない。
男と女の恋愛観を過去と現在に描く単調に成り兼ねない物語を斬新な復讐法として小説の場面が刺激的に描写される展開に、現実世界では何ら進展がないように一人佇むスーザンは何を思う?
2017/11/04
TOHOシネマズ シャンテにて鑑賞。
2022/04/18
U-NEXTにて再鑑賞。
一番の感情は恐い!
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