劇場公開日 2017年10月7日

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アウトレイジ 最終章 : インタビュー

2017年10月6日更新
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北野武監督、大森南朋&ピエール瀧と振り返る「アウトレイジ」シリーズの美学

きっちりとケジメをつけたと思っていた。しかし、北野武監督の頭の中ではさらに壮大で物悲しいフィナーレが用意されていた。3部作のラストを飾る「アウトレイジ 最終章」。徹底して追求し計算されたバイオレンスの連鎖の果てに、たどり着いた締めくくりとは。北野監督の下に招集された、シリーズ初参戦の大森南朋ピエール瀧とともにその美学に迫る。ストーリーの肝にも多少ふれている部分もあるので、ご了解の上お読みいただきたい。(取材・文/鈴木元、写真/根田拓也)

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もとをただせば「アウトレイジ」は、2010年の第1作で終わるはずだった。しかし、興行的な成功もあって続編への機運が高まる。北野監督も承諾し、「アウトレイジ ビヨンド」の脚本執筆にかかるが、その過程で「最終章」のストーリーラインができ上がっていたというから驚きだ。

「続編作ってくれませんかっていうから、それは簡単だよ、大友が復しゅう戦に入ればいい。腹を刺されたけれど、生きていることにすりゃあいいんだからって作ることになった。台本を作っているうちに、この流れは3になる、作れって言われそうだなあと思って。じゃあ3で終わらせる約束にして同時に書いちゃったんだよ」

刑事の片岡(小日向文世)を撃ち殺した大友(ビートたけし)は、フィクサーの張会長(金田時男)の計らいによって韓国・済州島で裏の世界を牛耳りながらも静かな時を過ごしていた。だが、済州島に来ていた花菱会の幹部・花田(ピエール瀧)とのトラブルをきっかけに軋轢(あつれき)が生まれ、張会長の身にも危険が及んだことで日本へ帰国する。これまで義を重んじて生きてきた大友らしい決意だ。

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「大友は、親子の関係をつけたら絶対にやらなきゃいけないってタイプ。張会長の若い衆がやられたってなると、盃(さかずき)は交わしていないけれど親だから帰って打ち込みにいく。そういう古いタイプの男を描きたいというのはあった」

済州島で大友の子分・市川を演じたのが大森。北野作品は「Dolls(ドールズ)」、「アキレスと亀」に続く3作目だが、「世界のキタノ」が描くバイオレンスの世界は待ちわびたオファーだった。

「あこがれていたシリーズですし、僕らの青春はそこだったので。1、2と拝見させていただいて加瀬亮さんしかり、2の桐谷健太さん、新井浩文さんしかり、田中哲司さんも出ていますし、しっとというかねたみというか、僕の出番はいつ来るんだろうと思っていましたから、非常に幸せな気持ちで参加させてもらいました」

出演者の常とう句である「コノヤロー」「バカヤロー」を発することはなかったが、常に大友に従い、心情を察して行動する。それだけに、俳優ビートたけしのすごみも肌で感じた。

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「もちろん監督でもありますし、テストは代役の方で進むんですけれど、本番に入ってくるだけで空気、世界が変わるので、その都度その都度恐ろしさを感じていました。緊張感は全然違いました」

一方、抗争の火種となる花田に抜てきされた瀧も、初の招集に「チラシやポスターの並びの中に交じっても大丈夫な顔に産んでくれた母親には感謝したい」と冗談めかしながらも、意気に感じたようだ。

「皆さん、顔一発で認識できる人たちばかりですから、その中に入って抗争の発端になってしまう役柄ですが、生きがいいヤツなのかただの調子こきなのかというところで最初は苦労しました。自分の中でたくさんイメージを広げて、その中から現場でリアルタイムでチョイスするやり方なのでスリリングで楽しい現場でした」

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大友に啖呵(たんか)を切ってしまったばかりに、その報いも壮絶。バリエーションに富んだ殺し方もシリーズのだいご味のひとつで、花田に関しては冒頭のシーンで見せたある性癖を巧みに利用しているのが心憎い。

「皆、花田は最後に死ぬだろうと思って見ているでしょうけれど、一番痛快じゃないといけないと思っていたので、監督がこうなるって決めてくださった時にはうれしかったですね。ちょっと変わった“花火”が上げられて良かったと思います」

これは花菱会の新たな会長に就任した野村役で、北野組には9年ぶりの参加となる大杉漣にも通じる部分がある。そんなアクの強い面々の暴走は歯止めがきかず、当初は裏で手綱を引いていた大友も抗争の矢面に立つことを余儀なくされる。だが、北野監督は「俺、とにかく出たくないんだよ」と自ちょう気味だ。

「役者さんは皆うまいからね。けっこうつらいよ。こっちは次のシーンのことばかり考えているし、セリフの稽古をしたこともない。ほかの役者さんの演技ばかり気になるから、自分は書き割りみたいになっちゃうんだよ」

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そうはいっても、大友がいなければ始まらないし終えんも迎えない。望むと望まないとに関わらず巻き込まれていくのは大友の悲運であり生きざまだ。そのケジメのつけ方も潔く、そして切ない。構想は果てしなくある。市川を韓国に帰したことでスピンオフや外伝の期待も膨らむ。だが、北野監督はシリーズ完結と断言する。

「やろうと思えば、今回が韓国だから今度は香港に行ってマフィアとシャブをめぐって撃ち合う。そうすると香港は以前は英国の統治下だから英国が出てきて、それをやったら目の前にニューヨークっていう世界制覇も考えた。そうしたらいつまでたっても深作(欣二)さんみたいに何とか抗争編になっちゃうから。役者を全部殺しちゃっているし、1回死んだ人は出られないことになっているんで締めておく」

大森が「それ、やりたいなあ」、瀧も「すごいなあ」と感嘆の表情を浮かべたが、北野監督にはさらなる大きなプランがあった。

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「違うパターンの映画を2、3本撮りたい。それでまだ寿命があって生きていたら、最後の大勝負で“大やくざ戦争”をやろうと思っている。オールスターキャストで全員に声をかけて。ギャラはとにかく出ないよって。日本の有名な男優、個性の強い男優を全部集めて、どっかん、どっかんやりたいなと思うね」

次作が注目されるのは北野監督の宿命だろう。「大やくざ戦争」を含め期待は先に取っておくとして、とりあえずはベネチア国際映画祭のクロージングも飾ったシリーズの集大成の余韻に浸りたい。

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