カフェ・ソサエティ : 映画評論・批評
2017年4月25日更新
2017年5月5日よりTOHOシネマズみゆき座ほかにてロードショー
「アニー・ホール」から40年たってもブレないアレンの人生観・ニューヨーク愛
ニューヨーク出身のユダヤ人青年がハリウッドで失恋を体験したのち、里帰りしたニューヨークで仕事の成功と新しい愛をつかむ。ところが……というドラマの中で、ウッディ・アレン監督の分身ともいうべき主人公ボビー(ジェシー・アイゼンバーグ)がたどるニューヨーク→ハリウッド→ニューヨークという軌跡は、「アニー・ホール」でアレン自身が演じる主人公がたどったものと同じだ。と思って「アニー・ホール」を見直したら、驚いた。
好きな人と結ばれても、いつしか別な選択肢があったのではないかと迷うようになる。でも結ばれなかったら、いつまでも未練を抱えて悶々とすることになる。うまくいこうがいくまいが、しょせん人は永遠に満たされない器だ。という人生観が、「カフェ・ソサエティ」と「アニー・ホール」は共通しているのだ。ちなみに「アニー・ホール」は1977年、アレン42歳の作品。40年たってもブレない80代のアレン、カッコいい。
ブレていないのはハリウッドとニューヨークの描写も同じだ。「アニー・ホール」のハリウッドを「文化的利点のない町」として描いたアレンの目には、「カフェ・ソサエティ」の1930年代黄金期のハリウッドも同様に映るらしい。ハリウッド観光の場面に登場するのは通俗的なスターの家めぐりだし、セレブの社交場は誰かの家のプールだし。対するニューヨーク観光の場面には賭場やジャズクラブなどエキサイティングなスポットが登場し、セレブはグラマラスなナイトクラブに集う。アレンのニューヨーク愛は健在だ
新しい試みもある。アレンと初コラボの撮影監督ビットリオ・ストラーロが初デジタルカメラで作り上げた映像は、全シーンをマジックアワーに撮影したような色彩が魅力だ。とくに、ニューヨークで再会した恋人たちの夜明けのキス・シーンをファンタジーへと昇華させたのは、ストラーロのお手柄。こんな魔法のような時間の思い出が人生の宝物になる。そう信じさせてくれるところにも「アニー・ホール」を感じた。
(矢崎由紀子)