「のろろの町」羊の木 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
のろろの町
『祈りの幕が下りる時』『不能犯』『去年の冬、きみと別れ』など今年の1月~3月にかけて面白そうな邦画サスペンス/ミステリーが続けて公開され、中でも特に興味惹かれたのが、本作。
将来本当に実現し得そうな話、監督が鬼才・吉田大八なのも食指が動く。
同名コミックを基に、大胆脚色され、結構賛否分かれてるが、個人的にはなかなか良かった。
いい所で、人もいいし、魚も旨いとある港町に、国家の極秘プロジェクトが導入される。
それは、刑務所のコスト削減と地方の過疎化対策を兼ね、元受刑者の定住と雇用を受け入れるというもの。
平凡な市役所職員がその担当となり、かくして男女6人の元受刑者がやって来た事から…。
ある日、変死体が発見される。
事故か、それとも殺人か…?
殺人ならば、6人の中の誰かがやったのか…?
6人の元受刑者は全員、殺人犯でもあった…。
…と、ここで評価が分かれる。
犯人は誰か?…の本格的なサスペンス・ミステリーを期待すると、肩透かし。
そもそも“事件”ではないし、作品自体も犯人探しのサスペンス・ミステリーではない。
人間模様こそ、本作の見所だ。
受刑者と共生出来るか。
罪を償い、更正しようとしているのだから、もう過去などとやかく言うべきではない。
…と、言葉では簡単に言える。頭では分かっている。
でも…。
いいエピソードもあった。理髪店で働く元受刑者の一人、クリーニング店で働く老受刑者も。
友達となって、歩み寄る。
でも、どうしても…。
先入観や偏見はいけない事だと分かってても、どうしても頭を過ってしまう。
彼らは、元受刑者。殺人犯…。
疑心暗鬼、猜疑心、狂気、不条理…。
それらが孕み、人の暗部が浮き彫りにされていく…。
吉田大八の演出は、何処か不穏で異様。
そこに、ブラック・ユーモアやシュールさを加味。
独特のムードを醸し出す。
この作風も好き嫌い分かれそうだが、それがより狂気や恐ろしさを滲ませるのに充分。
作品自体や作風は好み分かれても、キャストのアンサンブル演技について難を示す人は少ない筈。
錦戸亮も抑えた受け身の好演見せるが、やはり個性派面子が揃った元受刑者役6人!
挙動不審な水澤紳吾。
色っぽい優香。
根暗な市川実日子。
威圧感バリバリの田中泯。
質が悪そうな北村一輝。
自然体の松田龍平。
各々印象残す場面が設けられ、甲乙付け難いが、中でも松田龍平がひと際存在感を放つ。
彼の役柄が本作のテーマを最も表してもいた。
この印象的なタイトルについて開幕してすぐ表記されるが、それ以上に作品をモチーフ的に表していると思ったのが、“のろろ”。
舞台の港町で祭行事にもなっている、代々伝えられている存在。
決してその姿を見てはいけない、祭りの風景もユニーク。
今は神として崇められているが、その昔は…。
誰しも、一皮剥けば…
嫉妬から受刑者の過去をバラす。
祭りの酒の席で豹変。
誘惑。
密かに何かを企む。
内に秘めた凶暴性が、再び誰かを…。
ラストこそは“事件”が起こる。
6人の行く末もそれぞれ。
定住出来そうな元受刑者も居れば…
のろろの生け贄になった者も…。
のろろ~ ろろの~
のろろ様は、この町と、善人の皮を被った心の暗部に棲み潜み、ずっと見ている。