二度めの夏、二度と会えない君 : インタビュー
村上虹郎「二度めの夏、二度と会えない君」で見つけた新たな“演じる喜び”
村上虹郎が映画「二度めの夏、二度と会えない君」(9月1日公開)で演じたのは、切なすぎる思いを抱えて半年前の“あの日”にタイムリープする男子高校生だ。「ある意味、不条理な物語」と評す今作で、村上は何を表現し、どう過ごしたのだろうか。共演者やメガホンをとった中西健二監督との関わりから発見した、新たな“演じる喜び”を交えながら語った。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)
今作は赤城大空氏の人気ライトノベルを実写化した、タイムリープとバンド活動が題材の青春ラブストーリー。不治の病を患う森山燐の死に際、自分の思いを告白したことを後悔する高校生・篠原智(村上)が、ひょんなことから半年前にタイムリープし、燐やバンドメンバーと過ごした日々をやり直す姿を描く。
今作が「一味違う切り口だ」と感じさせる要因のひとつは、主人公・智が大きく運命を変えようとせず、粛々と「1周目と同じ行動」を遂行しようとする一方で、「思いを寄せる燐に二度と『好きだ』と言わない」と心に誓う点だろう。2周目こそ燐の未来に自分がさらなる影を落とさぬよう、必死に思いを押し殺す智の姿が、ひたすらに切ない。
村上はタイムリープというギミックに「ゲーム的」と言及したうえで、「観客は『2周目はどうなるんだ』と、大きく変わることを期待してくれているんだと思います。でもこの映画は、ミニマムかつシリアスで、すごく繊細な話なんです」と述べる。「智の世界は音楽と燐だけ。燐を失うことは、圧倒的な太陽がいなくなること、イコール音楽を失うことにもなります。智がやり直したいと強く願うのは素晴らしいことだと思う。そして純粋に人のために頑張れる、というところも。でも、もっとその瞬間を楽しんでも良いのでは、とも思いました」と、主人公の心情に寄り添った。
等身大の高校生を演じる上で、アプローチは「削ぎ落とすこと」だったといい、「ずっと後悔しているキャラなので、つらい部分はありました」と苦笑する。「記憶が鮮明に残っている半年前にタイムリープというのも絶妙。5年や10年前だと、無責任に他人事だと思ってしまうかもしれない。半年前だと無責任になれないし、智がそういうところで誰にも打ち明けられず、悩んでいることも意識しました」。
また、映画初出演となったガールズバンド「たんこぶちん」の吉田円佳が、ヒロイン・燐役を好演。智の行動原理は大きく燐に依っているだけに、吉田の芝居が村上、ひいては映画に及ぼす影響は少なくない。村上は「円佳さんは、お芝居は初めてだと聞いていましたが、僕は初めてと感じなかった」と振り返り、「円佳さんは10年もバンドで“表現”している。そういう方はやはりスクリーンを通して見ても強くて、輝いていた」と惜しみない称賛を送る。
ほかにも智を取り巻くバンドメンバー役には「AKB48」の加藤玲奈、モデルの金城茉奈、俳優集団「D-BOYS」の山田裕貴と個性豊かな若手注目株がそろい、村上はそのことに満足げな笑みを浮かべる。劇中ではまったく方向性の違うメンバーがバンドに集い、音楽を通じて混ざり合っていくが、撮影現場でも音楽と芝居を軸に俳優陣が共鳴しあっていたそうだ。「考えてみればメンバーは皆、僕以外肩書きがあるんです。ここまで多ジャンルで集まると、仲が良くとも共通言語はあまりなかったりします。何が共通言語だったかというと、『たんこぶちん』がつくってくれた5曲の音楽と、芝居でした。それが良いなと思う現場でした」
そして中西監督の手法が、村上にさらなる喜びを与えた。「中西監督は、まったくモニターを見ないんです。そこはすべて撮影監督さんに託していて、基本的にカメラの横でずっと芝居を見てくれていました。かつてのフィルム(で撮影していた)時代は、その場で画角は決めることができますが、仕上がりはラッシュを見るまでチェック出来ない。だから芝居中にモニターを見ることはできなかったと聞きます。僕はその世代じゃないからこそ、中西監督がそうしてくれた(芝居を肉眼で見てくれていた)ことに嬉しさを感じました」。
「演じ方にも変化があった」。芝居での新しい体験、発見に言及するとき、村上の顔が一層華やいだことが印象的だ。「“舞台的”だと感じました。目の前で自分の演技を演出家が見ていることが稽古のようだし、見られていることをより意識するから、恥ずかしさも出てきます。緊張感も出てきます。開放された気分にはならず、何も隠せないわけですから、ある意味怖いです。しかし、そこで『役を生きている』感覚はありました。実は、去年撮影した『武曲 MUKOKU』の熊切和嘉監督も同じ手法でした。立て続けにそうした監督さんとご一緒できて、貴重な、嬉しい経験でした」。
河瀬直美監督作「2つ目の窓」(2014)で鮮烈なデビューを飾った後、16~17年には映画「ディストラクション・ベイビーズ」「武曲 MUKOKU」をはじめ、2本の舞台、5本のドラマで存在感を見せつけ、独自の立場を確立しつつある村上。短期間で多彩な役どころに挑むにあたり、やはり苦労は多いようだ。「最近はドラマ『仰げば尊し』で吹奏楽部に入る元バンドマンの不良役、そこから『武曲』ではラッパー兼剣道家と、多彩、多彩、という役が続きました。今作はギターがあるものの、基本的に一本侍ですから、落ち着いたとは思いましたが、これら全部にライブシーンがありました。それにしても吹奏楽のトランペットが一番難しかった。ギターでFが弾けない、とは比べ物にならないほどでした」と吐露するものの、口ぶりからは「楽しくてたまらない」という浮き立つような心情も感じ取れる。
そんな村上にとって、“演じること”はどんなものなのだろうか。そう問うと、しばし考え、胸に留める信念を明かしてくれた。「『生きること』です。かっこつけた言い方になってしまいますが(笑)。俳優は、すべての経験が活きる可能性があると思うんです。すべてを無駄にできないですし、無駄にした時間も必要な経験だったりする。プライベートも仕事も全部、地続き。今読みたい本も次の作品のためだったり、役のために深く掘る作業もするので、すべてが趣味になり得るんです。もう3、4年後くらいに僕の話を聞いてもらえると、面白いかもしれません。そのころには、いい意味でもっと“無駄”が増えていると思います」。